「へぇ」


へぇ、って…
私は勇気出して言ったのにそれだけ?

まだ誤解は解けないの?


「本当だよ⁈たまたま同じクラスで隣りの席になっただで」

「俺は綾音と特別仲が良い気でいたけど」

「全然っ‼︎ただ隣の席で掃除の班も同じ、球技大会の競技も同じ、部活も同じ。同じ事だらけでって……俺⁈⁈」


“ 特別”を強調する言い方。
仲が良い気で“いた”と、あたかも自分が当事者のような言い回し。

極め付けは、葉山にしては高めの声。

違和感を感じて勢いよく顔を上げると、葉山の後ろに空気を読めないぐらい満面の笑みを浮かべた細井がピースをしながら立っていた。


「細井⁈なんで?」

「なんでって朝練」

「あっ、朝練…だよね」


今日はバスケ部の朝練の日。
細井だっているに決まってる。


「もしかして修羅場?なんか彼氏に浮気を疑われて弁解してるような雰囲気だったけど」

「ち、違うしっ」

「あ。ビンゴ?」


しくじった……っ!
動揺し過ぎて声が裏返り、細井はそれを聞き逃さなかった。


「だから!葉山っ……先輩とは付き合ってないから。彼氏とか浮気とか……あり得ないし」


自分で言ってて悲しくなる。

語尾につれて弱々しくなる声。

もうヤダ。細井の馬鹿。
最低最悪な感じになっちゃったじゃん…

なんて、人のせいにしないと自分が情けなくて立っても居られないよ。


「まだ付き合ってないんだ」


ふ〜ん、と含み笑いをする細井をキッと睨みつける。

だけど、細井は全く動じてない。


「……俺行くわ。細井も西條も早くしないと遅れるぞ」


葉山は私を見ずに、昇降口で靴を履き替える。


「えっ⁈葉山、ちょっと待っ……」


追いかけようとしたけど、追いかけられなかった。

あまりにも冷たい横顔に、私の足は凍りついてしまった。