「水無月君……帰ってきてる⁉︎」

珍しく彩葉が慌ただしく 桜龍倉庫に入ってきた。

「……爽⁇
帰ってきて、すぐ着替えて……ついさっき、出て行ったぞ。」

机に向かっていた瞬也が顔を上げて、答えた。

「でさ、理解できないんだけど……なんで そうなんだよ。」

「……もう、面倒になってきたから、凌牙に聞いてよ。

俺の手には負えない。」

黒蝶と抗争をして、松井が捕まったあの日から もう1ヶ月程経った。

ようやく受験モードになった桜龍 3年生メンバーはゲーム機やバイク雑誌を鉛筆に持ち替え、毎日 倉庫で勉強会をしていた。

「そっか……ありがとう。」

彩葉は瞬也の声を聞くと 踵を返し 倉庫から出ようとした。

「どうかしたのか⁇」

何か爽に用がありそうな彩葉に訳を聞こうとした。

「最近、ずっと水無月君の様子がおかしくて……。

今日はいつにもまして、目に余ったから……話でも聞こうかな、って思ったんだけど……」

勉強をしていたメンバー皆が手を止めた。

「……確かに。」

「ただならない雰囲気 醸し出しながら 出て行ったよな。」

爽のことが心配になる彩葉。

「何処に行ったか、分からない……⁇」

「……聞いたけど、答えてくれたか⁇」

「海、って呟いてたよ。」

「……死んだ恋人の後を追うつもりか⁇」

「流石にないでしょ……、ってか、ありえない、って信じたい……けど。」

「……最近の爽の様子じゃ、否定 しきれないな。」

困った顔をする3年生たち。

「でも、海……つったって、何処か分かんねーしな……」

「俺等はここで、爽の帰りを待とう。

それしか、策がないのが 心苦しいけど……。」