「俺も聞いていい?」
私が黙ったところで、今度は大津くんが私に話しかけた。
「なんですか?」
「桜子ちゃんのお兄さん殺したやつの名前わかる?」
「………中村龍一。」
「ふーん、なるほどねー。」
「知ってますか?」
「うん、もちろん。
かたつむりのトップだよ。」
「え?
………あの暴走族の総長…ってことですか?」
「うん。
そっかー、突然走ることやめたり、かたつむりから姿見えなくなったのはそういうことかー。」
「え、いないんですか?」
「ううん、本当はいるよ。
だけど隠れてんの。見た目も変えて、下のやつらに紛れて走ってる。
俺らもそれに気づいたのは蓮が総長になってから。
執行猶予中ならきっと警察に目つけられないように、だろうね。
事故っちゃえばそんなの意味ないのにね。」
………走ってる、か…
全然反省してないんだな………
「龍一が桜子の兄さん跳ねたやつか?」
「どうして黒崎くんが知ってるんですか?」
「ごめんね、俺がしゃべっちゃった。」
「………別にいいです。
黒崎くんは中村龍一のことを知ってるんですか?」
「知ってるもなにも、俺の幼馴染みだし。」
「えっ…?」
「かたつむりのほとんどのやつらが元ブラスパで、上のやつらが下のやつ引き連れて勝手に脱退、かたつむりを作ったの。
その下のやつらの一人に龍一も入ってて。
蓮は龍一がブラスパから出るときに誘われたんだけど、ここのやり方が好きな蓮はそれを断ってここに残ったんだよ。
俺らはそんなこと全然知らなかったんだけどな。
ま、断ったから蓮と龍一の仲にも亀裂が入ったってわけ。
元々敵の蜘蛛とかたつむりだけど、そのトップが蓮と龍一になったことによって、さらに溝が深くなったってわけ。」
「へぇ…でも幼馴染みなのに、その程度のことで壊れてしまうんですか?」
「桜子にはないのかよ。
すげー信じてたやつが些細なことで自分を裏切って、豹変したこと。
一気に信じられなくなったこと」
「………ありますね。」
私も、今はもうお母さんが怖い。
信用できない、というよりも従うしかないあの空気が怖くて仕方ない。
無邪気に笑いかけることは、もうできない。