窓から射す光で、教室が赤く沈む頃。
暖かな日射しにまどろむ少女が一人。

外から聞こえる部活生の声を聞きながら、重い瞼を必死に開けようとしたものの眠気には勝てず。

頬杖をつき寝息をたてはじめた少女の柔らかそうな髪が、かすかに揺れる。

手元にはやりかけの問題集と、繁雑な計算が並ぶノート。なんの飾りもないシャーペンが、細い指の先で転がっている。


そのとき、教室の外からかすかに足音が聞こえた。
次第に近づくそれに、少女はまだ気付くことなく心地よい寝息をたてている。

そして、足音は少女の眠る教室の前で止まり、勢いよく戸が開かれた。

「おーい、蓮!起きてるかー…って、あれ…」

少女の名を呼び入ってきたのは、黒髪を今風に整えた細身の男。猫目の甘そうな顔立ちは女受けの良さそうな印象を与える。

「なにー、まーた寝てんの?」

男は蓮と呼ばれる少女に話しかけるが、寝ている彼女から返事は帰ってこない。それをいつものことのように、男は口元に笑みを浮かべながら近づいていく。


少女の前まで歩み寄り、彼女が寝ているのを確認すると男は前の席のイスを引いて座った。少女の方へイスを傾けると、木製のそれが音をたて軋む。

顔を近づけても少女はいまだに気持ちよさそうな寝息をたてていて、起きる気配は無い。男はそれを確認すると、さらに顔を近づける。

もう二人の息さえ重なってしまいそうな距離で、男はぴた、と止まり顔を離す。そして一つ息をつくと、もう一度少女の名を呼んだ。

「蓮、ほら起-きーろ。帰るぞ!」

軽く肩を叩きもう一度呼べば、少女の瞼が小さく動いた。