「…あ!」
いつもどおり帰っていたとき、宿題のプリントを忘れたことに気づく。
「ごめん、宿題置いてきちゃったから先帰ってて!」
「一緒に行こうか?」
田辺くんがそう言ってくれたけど、二人に申し訳なくて一人で引き返した。
教室へ戻るともう誰もいなくて、みんなの声や騒がしさが無いここは、いつものそれとは全く違うところみたい。
引き出しからプリントを見つけ、ランドセルに入れる。
ふと、佐倉くんの席を見た。なんだか急に恋しくなって、その席に腰をかける。
「…」
一緒にいても寂しい。いなかったらもっと寂しい。好きって気づいてからは上手く話しかけられないし、近くにいるのにすごくすごく遠い存在に感じる。
日直が男の子のときはとくに、黒板の消し方が綺麗とは言えなくて、チョークの跡がすこし残っていた。
黒板に佐倉くんの横顔が浮かぶ。
私が見てるのはいつも横顔とその向こうの景色。目と目を合わせると気持ちが見透かされちゃう気がして、いつからか、横顔ばかり見ていた気がする。
ハッと我に帰って、パチッと手を叩いてその横顔を消す。
また寂しくなって、私は教室を出た。
久々に一人で帰る道はなんだか切なくて、この道にも佐倉くんの後ろ姿が浮かんでしまう。
今思うと、好きになる前に聞きたかったことがいっぱいあった。
どんな子が好きで、どんなものが好きで、どんなものを見ていて、どんなことを思っているのか。
それは手遅れだって、誰に教えられなくても、分かった。