玄関の扉を開けると先輩の香りが鼻を掠めた。


どうしたって嫌いになんかなれないこの香り。



部屋に入ると私が出て行く前と何も変わっていない光景がそこにあった。




もう私のものは処分されているのではないかという不安も少しばかりあったから、私のものまでそのまま置いてあることに驚いた。






…荷物をまとめよう。

タンスの中から服を取り出し持ってきてあるバックに詰めていく。



どんどん空になるタンスを呆然と眺める。


呆気ない。





歯ブラシや私用のシャンプーやリンスを捨て
いらないものは全部捨て荷物をまとめる。

全てを終えて部屋を見渡してみれば、もうそこには私のものなんてひとつもなくて。




やっぱり呆気ない。






帰ろう。

そう思い荷物を持ち玄関に向かおうとした時
”バンッ”と多く音を立て玄関の扉が開かれた。



なに?!






驚いて音のした方に目を向ければ







……どうして、




そこにいたのは


「…先輩」


息を切らした先輩で。





相変わらずの綺麗な漆黒の髪が乱れていて、肩で息をする先輩のその姿に違和感を覚える。





…走ってきたの?