ジュジュの気が動転している間に、バルジがマントを持ってきた。

 それと同時に御者も何かを抱えて戻ってきて、そそくさと馬車に乗り込んだ。

「あ、あの、マーカスさん?」

 マーカスはすでに船をこぎコックリしていた。

 そうしているうちに、馬車は動き出し、長居は無用だと言わんばかりにさっさと行ってしまった。

 ジュジュは耳にした言葉に捉われすぎて、呆然として小さくなる馬車を眺めていた。

 そこにカルマンがやってきて、無邪気に質問してくる。

「ジュジュ、今日の夕食の献立は何?」

「腰掛毒キノコ……」

 ジュジュは無意識に答えていた。

「えっ、毒キノコ? ジュジュ、冗談きついよ」

 カルマンは笑っていた。そして走りよってバルジに近づく。

「あっ、バルジ、リーフっていつまた出かけるんだろう」

「どうしてそんな事を訊く?」

「なんかジュジュが来てから、家にずっといる時間が長くなったなって思っただけ。余程ジュジュの事が気に入ってるんだね」

 何気にカルマンが言った言葉に、ジュジュは反応した。

 振り返れば、カルマンとバルジが肩を並べてドアを潜ったところだった。

 ジュジュはマーカスが言った言葉を何度も反芻していた。

『リーフから聞いたけど、あんた昔、腰掛毒キノコの生息地に入って、花粉を浴びて、逃げる途中で沼地に落ちたんだってな』

 それはジュジュにしか知りえない事実。

 この言葉が意味することは……一つしかない。

 自分を助けだした人物は、リーフ──

 ジュジュは屋敷を見上げて、放心状態になっていた。