玄関先から、マスカートとムッカの声がする。

「ただいま」

 二人の表情が疲れている。

 いつもなら、何気にその様子を伺うが、今は自分の事で精一杯で、ジュジュは「おかえり」と挨拶するだけだった。

「おーい、バルジ、マーカスに馬車が待ってること伝えてきてくれ。私は少し部屋で休むよ」

 マスカートは二階へ上がって行った。

 その様子からドルーとの問題がまだ解決してなさそうに思えた。

 本人もそのことについては話したくないから、さっさと部屋に行ったのだろうが、そんな事を考える前に、自分の事をまずなんとかしなければならなかった。

 ジュジュもまた、マスカートの疲れが移ったように、顔が曇っていた。

「お、ジュジュ、なんか元気なさそうだな」

 ムッカに言われて、ジュジュはハッとする。

「もしかして俺達が居なくて寂しかったとか? だったら嬉しいけどな……」

 ムッカは勝手に喋って、広間に入っていった。

 ドシッとソファーに勢いで座り込む音が聞こえ、ムッカも疲れていることが伺えた。

 奥から、バルジに付き添われてマーカスが足をふらつかせてやってきた。

 顔も真っ赤で、相当飲んで酔っている。

「よぉ、ジュジュ。会えて嬉しかったよ。あんたはかわいい。今度はもっとゆっくり喋ろうな」

 屋敷の外では馬車が待っていた。

 御者はあたりをキョロキョロしていたが、カルマンを見つけると急に笑顔になり、走って近寄って行った。

 二人はコソコソと周りを気にするように何か話していた。

 バルジは馬車にマーカスを乗せるが、ふらふらしてずり落ちそうに不安定だった。

「あっ、マントを忘れたわい。バルジとってきてくれ」

 バルジはすぐさま戻って取りに行く。

 マーカスは一人馬車の上で今にも落ちそうにゆらゆらしていた。

 ジュジュは心配になり、マーカスに近づいた。

「帰る時は揺れますから、落ちないように気をつけて下さいね」

「おー、優しい子じゃのう。ありがとうな、ジュジュ。リーフから聞いたけど、あんた昔、腰掛毒キノコの生息地に入って、花粉を浴びて、逃げる途中で沼地に落ちたんだってな。よく助かったこっちゃ。この森は危ないからくれぐれも気をつけるんじゃぞ」

「えっ、今、なんて? 腰掛毒キノコ? 沼地? えっ? えっ?」