急に広がった目の前の視界、そこは葉っぱの絨毯で覆われ、真ん中に大きなキノコのテーブルと切り株の椅子が二つ用意されていた。

 色とりどりの花が咲き乱れ、タンポポの綿毛がやさしく舞い、置物のように鹿がじっと立ってこっちを見ている。

 木の枝には小鳥が止まり、綺麗な声で軽やかに鳴いている。

 リスがチョコチョコと走り回り、木の実を運んでテーブルの上に置いた。

 まるでおとぎ話の中に入り込んだような、幻想の世界が広がっていた。

 『森の中の小さな部屋』

 先ほどのセイボルの言葉を思い出し、ジュジュは目をパチクリとして、セイボルを見つめた。

「気に入ってもらえただろうか」

「でも、なぜ? 私には魔術が使えないんじゃないの?」

「君には魔術は使えないけど、そこにある物を利用しての魔術は見せることができる。だから何もないところから魔術だけで幻想を作り上げると、ジュジュには見えないんだ」

「私が今見えてるものは、全てが元々この森にあるものってことなの?」

「そう、その通り。それらに魔術を使って形を変えたり、命令することができる。それらは意志をもってたり、生命がある。今は一時的にその力を借りてるのさ」

「わかったような、わからないような」

「とにかく魔術さ!」

 セイボルがまた指を鳴らす。今度は虫たちが鳴き出し、カエルが歌う。

 いつぞやのカラスもやってきて、セイボルの腕に止まった。

「この森の一番の友達だ」

 カラスは得意そうに「アー」と鳴いた。

「このカラスが、セイボルに色々と手助けしてるのね」

「それは君の友達、モンモンシューと同じだろ」

 カラスは羽を広げ、飛び立ちぐるぐると頭上を旋回させた。

 何か異変がないように見張っている様子だった。

 モンモンシューも一緒になって空を飛んで行った。

 どちらも自分の仕事ぶりを見せ合いっこしているみたいだった。

 ジュジュはクスッと笑うと、セイボルも「ほどほどにな」と茶化していた。