携帯が鳴る方へ導かれるまま、近づいていき、
目の前の手すりを躊躇なく跨ぐと、僕は、1階の地面に、視線をやらない様に努力して難とかカバーが上向きになっている携帯を取ると、また、手すりを跨ぎ校舎の屋上に手すりを背にした状態で鳴り響く携帯のディスプレイに目を落とした。

「稚早」

そこには女の子らしき名前が携帯のディスプレイに表示されている。

あの子の友達かな……

自殺を考えているぐらいに追い詰められていて、友達に何かしらの相談をしていてもおかしくない。

僕はこの鳴っている携帯に操られているかの様に通話の文字に指を当て、携帯を耳にあてた。
「……」

携帯からは何も聞こえず、僕は耳に全神経を向けた。すると微かに人の息づかいが聞こえた。

「…あの…」

僕は勇気を出して誰が置いたのかも分からない携帯に、誰かも分からない電話越しの相手に話しかけた

すると、数秒の沈黙のあと恐る恐る話す女の子の声が聞こえた。
「………真人くん?」

「!?!?」

「真人」と言う女の子が発した言葉に対して僕の頭は真っ白になる。
真人とは僕の名前だからだ。
僕は稚早と言う女の子に心当たりなど無かった。

「その声は、真人くんだよね。やっぱり私の携帯を拾って電話に出てくれたんだ。ありがとう。」

僕はその言葉で頭が真っ白の上にパニックになってしまう。
そんな僕の事など気にしていないように彼女は最初の声が嘘のように嬉しそうな声で僕に話しかけてきた。

「いったい何処の誰なんだよ!?」

真っ白の上にパニックになっている今の僕の頭では相手の素性を聴く事だけで一杯一杯だった。

「真人くんにこれから助けてもらう稚早。」

稚早と言う女は話を続けた。

「いきなり、見ず知らずの女の子から自分の名前を言われてきっと、ビックリしてると思うんだけど、今はちゃんと説明している暇がないの。だけど、今見た事は事件にもならないから、安心して。」

淡々と話す稚早と言う女の子のしゃべり方に僕は少し冷静さを取り戻した。

「意味がわかんねーよ!!ちゃんと説明しろよ!!大体なんでお前の携帯なんだよ??これは今飛び降りた子の携帯のはずだろ!?」

「真人くんはどんなに辛い事があってもそれを乗り越える勇気を持ってる。だから私は、こうして、真人くんから貰った勇気を出して今あなたと話をしているの。」

僕と彼女の話が全く噛み合わない。
彼女が一方的に話すだけだ。

「ちょっと待てよ!!マジで、本当に何言ってんのかよく分からない!!」

「真人くん。私は信じてるから!!だから…」

話の途中でノイズの様な音が聞こえたかと思うと、段々と声が小さくなっていきそのまま電話が切れた。