目の前で彼女が自殺をして、どれ程の時間がたったのだろう……

僕はその場から動くことができず、彼女の最後の姿を見たままの状態で体が硬直したままだった。

なんでこんな事態になってしまったのか……

恐怖と混乱でぐちゃぐちゃの頭を回転させる。

とりあえず、逃げなければ……

授業の終わりのベルがなり、生徒が校庭に出ればきっと大騒ぎになり、屋上にいた僕が最初に疑われるのが思考回路が停止しかけた頭でもハッキリと分かった。

学校の人間に僕が屋上に居たことがばれる前に一刻も早くこの場から立ち去らなければ。

僕は硬直していたうつ伏せのままの状態の体を動かすように脳に働きかけ、起き上がると、ペントハウスの平屋根から校舎の屋上に飛び降りた。 

ペントハウスの鉄のドアを開ける為、ドアノブに手をかけ、一目散にこの場を離れようとする時だった。

「♪~♪~♪~♪」

僕の背中で携帯の着信音が鳴り響いた。

自分でも何故かは分からなかった。
だけど、携帯の着信音を聴いた瞬間僕の中にあった不安と恐怖が不思議と消えていくのを感じた。
まるで、携帯が意思をもって僕に優しく呼びかけているかのように。

不思議な気持ちを持った僕は手をドアノブから離すと、背中で鳴っている携帯の方に振り向く。

そして、携帯に誘導されるかのように着信音が流れる場所まで近づいて行った。