彼は……真也は優しい。


それを認めつつ、けれど受け入れ切れない私はきっちり線引きをする。



この一線は——超えられない。




名家に生まれ、厳しく育てられた。


外の世界を知らない私にとって当たり前のことは、きっと当たり前ではない。


けれども、私にとってはそれが普通であり、全て。



たとえ理解できなくとも、彼の普通を否定もできなくて。


——だから、汚してはいけない。




ソファーに腰掛けながら、思考の衰えた脳内で考え抜いた末に、口を開く。


「本当に私は……ここに居ても良いのでしょうか…?」



ここに来たばかりの頃に問いかけた。


今もまだ答えは出ない。



ただ、迷惑をかけるのは嫌だ。


心配されるのも、同情されるのも。


そして……


真也に嫌われるのも嫌だと、そう思ってしまう。