追いつけない、胸の内に渦巻く正体の分からない何か。


今まで押し込めていたものが、意思に反して出てきてしまいそうで。


制御できない。



「あの、私…は…」


どうしたらいいのだろう。


言葉を探して口を開くけれど、言いたいことが出てこない。


すると……



ふわり、と何かに包み込まれる感覚がした。


落ち着く香り。


心地良くて、暖かい…。


透き通るような髪が視界に写って、抱きしめられているのだとようやく気付いた。



「落ち着け、雛李」



吸い込まれそうに澄んだ瞳に覗き込まれ、心が揺れ動く。


大丈夫、落ち着いている。


そう思いたかったけれど、これでは無理だ。


おかしい、今までの私ならば何があっても動揺することなど無いはずなのに。



「まずは座って心を落ち着けるんだ」



彼の言葉はまるで私をあやすように、耳の奥に優しく響く。


心の深いところにある、柔らかい部分に触れてくる。


私を、おかしくさせる。