目が覚める。
見慣れない部屋に記憶をたどり、起き上がったと同時に激しい頭痛がわたるを襲った。
そうだ。昨日飲み会だったんだ。
ベッドから起き上り、頭を押さえ寝袋の中で芋虫と化した山本の姿を発見する。
「……」
鞄がベッドの脇に置いてあったので、そこからスマートフォンを取り出し、カメラ昨日を発動させた。
カシャ
部屋の中にシャッター音が響く。
「何撮ってんだよ……」
寝袋の中の山本が、低い声をあげた。
寝起きの山本。
髪の毛が四方八方に飛んでいるうえに、頬にはジッパーの後がついてどこぞの海賊のようになっている。
「いや、何もしてないけど」
笑みを含んだ声色になってしまった。
芋虫海賊山本。
だめだ、面白すぎる。
「嘘つけ。そういや、二日酔い大丈夫か?あんだけ酔ってりゃ、辛いだろ」
「あー、まあ、けっこう」
「今日もう少し休んでけば?」
「授業は?」
「俺、今日授業入ってないもん」
再び寝袋の中に潜り込んで、芋虫海賊山本は言った。
「じゃあ、もう少しいるわ」
「腹減ったら言って。飯ぐらいは出すから」
「なんか……ごめん」
「何が?」
「色々……」
「あやまんなって。俺別に大丈夫だし。だからさっき撮った写真は削除しとけよ」
「うん。それは無理」
「なんでだよ」
笑って山本は寝袋のままこちらへ体勢をわたるの方へ向ける。
その様子がおかしくて、わたるも笑った。
「ちょっと、そのままこっち向かってくるな」
散々二人で笑う。こんな楽しい時間を付き合っている時は過ごした。
「あー、やっぱ野田は一緒にいて楽だな」
身体半分を寝袋の中から出し、山本は言う。
「それはこっちの台詞だよ」
「戻って来ちゃえば?」
冗談めかした口調の山本の言葉に、わたるは一瞬動けなくなった。
「何言ってんの……?」
「いや、彼氏いるのに寝言で俺の名前呼ぶからさ」
「嘘つくな」
「こんな可哀想な嘘ついてどうすんだよ」
今度は完全に寝袋から起き上がって山本は言う。
キッチンでお湯を沸かす山本を目で追いかけながら、山本の次の言葉を待った。
しかし、山本は喋らない。
数分後、紅茶を出されわたるはそれを受け取った。
アールグレイの茶葉の香りが、身体を温めていく。