「アホか。そんな事女の子にすんなよ!」
目を覚ますと山本の怒る声が聞こえる。
気のせいだ。
今日は欠席しているんだから。
「いや、だってさ。野田って男らしいとこあるから酒も強いと思って」
「いつもたいして飲まないで、いちご牛乳とか飲んでるだろうが」
瞳を開けると、そこには本当に山本の姿がいた。
起き上ると同時に山本と目が合う。
「……なんで、いるの?」
「呼び出されたんだよ。野田が死にそうって」
「……」
「おら。帰るぞ」
引っ張られ起こされた。
「なんか、山本。すまん」
「すまん……」
ぐったりしているわたるを引き上げる山本を眺めつつ、輩は言った。
「別にいいよ。野田。家どこだ?」
「知らない」
再びぐったりして、わたるは答えた。
なんで、普通の態度なんだろう。
とぐるぐるした思考の中で呟いた。
「知らないってお前……」
「持って帰っていいんじゃん?山本ん家ここから歩いて五分じゃん。タクシーに乗せて帰るのも高いうえに危ないだろ。どうせ、お前ら付き合ってるんだし」
「もう別れたよ」
「ええ!?なんで?」
「無理矢理、手出そうとしたんだろ」
「あーあ、それで野田さんと雰囲気微妙だから、今日の飲み会来なかったのか」
「お前ら、この状況でよくそんな事が言えたもんだな」
本気で怒っているらしい山本が、からかう奴らを睨みつける。
「アハハ、じゃあ元さやのよしみって事で」
わたるの目の前で、別れた事が周囲にも広まっていく。
完全に関係は断ち切れた。
「自分で帰る」
フラフラと揺れながら、わたるは立ちあがる。
「いや、野田。無理あるだろ。山本に送って貰えって」
「大丈夫」
「そこ、頑なになるとこじゃねえぞ」
「頑なじゃないし。じゃあね」
「バッグ忘れてるやつがどうやって家まで帰るんだよ」
山本が心配そうな顔で、わたるの鞄を持って後をついていく。
「ついてくんなよ」
「俺も帰るんだよ」
駅に到着して、スマートフォンを捜した。
「あれ、スマホ」
「こっちに入ってるんだろ」
鞄を差し出されて受け取る。
そしてスマートフォンを取り出して、山本に渡した。
「時間調べて」
「おま……そんな無防備な。彼氏から着信の表示があるような物、俺に渡すなよ」
「心が狭いな、山本は。本当だ。来てる。めんどくさ」
「めんどくさって、相手に失礼だろ。俺の携帯で時間調べてやっから。で、最寄りどこだよ」
「下赤塚」
「下赤塚ね。意外に遠いな……ってもう終電逃してるぞ」
「嘘だ」
「嘘じゃあねえよ。読め。行けても途中で降りてタクシーだ」
「じゃあ、山本ん家行く」
「じゃあって……」
「いいじゃん、近いんだし。ケチケチすんな」
場所は知っているので、歩き始める。
「やっぱ、タクシーで帰れよ。俺応援してやるから」
「今月ピンチって言ってたじゃん」
「給料入ったし。大丈夫だから」
「やだ」
「やだって……彼氏いる女の子が男ん家泊るとかよくないだろ」
「何も起らなきゃいいじゃん」
「そういう問題じゃないだろ」
山本は力なく答えた後、真っ直ぐ歩くことが出来ないわたるを支えた。