次の日。わたるは学校へ行く準備をしていた。
佑香の努力の結果を目の当たりにして、じっとしていられなくなったというのが正直な感想である。
学校へ向かう途中で山本の事を思い出した。
今日は授業一緒の日なのである。
何となく気が重たいが、ずっと避けている訳にもいかない。
教室へ入ると、山本の存在を見つけた。意を決してそちらへ向かう。
「おはよう」
「……よう。最近来ないからちょっと心配してた。ノートいるか?」
「ああ……うん。いいの?」
「いいよ。今日の昼奢ってもらうつもりだから」
「ああ、わかった」
「ラッキー」
笑いながら、山本は言う。気を使ってくれているのが分かった。
授業が始まる。
近代都市が現代人にもたらした影響。
やっぱり意味が分からない。
とりあえず、教授の言った言葉をノートに書き写していく。
「つまんねーよな、この授業」
隣の席で山本が呟いた。相変わらず緊張感のない男だ。
「確かに」
「野田って緊張感ないよな」
呼び方がわたるから野田に戻っている。
付き合ってもいないのだから当たり前なのだが、何故か心の奥が苦しい。
「山本もね」
平静を装って切り返す。
表面的な関係は元に戻った。
しかし、安堵する事が出来ないのは、それが山本と別れて後悔をしているという事に、気がついているからである。
前の彼氏とは違って、山本は何も嫌な事を言わなかった。
ずっと優しかった。
あの時やはり戻るべきじゃなかったのかもしれない。
そんな後悔ばかりが頭をよぎった。