次の日曜日。
原宿駅から竹下通りを突き抜け、信号を渡り、そのまま真っ直ぐ突き抜けたところを右折した場所にあるという(佑香の口答より参照)ギャラリーにわたるは向かった。
「あ、ノダーマン」
キャットストリートを越えた辺りまで、佑香は迎えに来てくれたようだ。
そこら一緒に歩き始める。
ギャラリーはそこから歩いて一分足らずの場所にあった。
「その呼び方やめろ。ってかすごいな」
道路面の壁がガラス張りになっているそのギャラリーは、中の作品がよく見えるよう作られている。
道行く人がそのガラズ越しに彼女の作品を眺めているのが見えた。
「おかげさまで」
「ってか、店番大丈夫なの?」
「知り合いの人が見ててくれるって言うから」
そう言ってギャラリーの中に入る。
友人の制作した油絵の圧倒的な存在感に驚くばかりだ。
「すごっ!」
「すごいですよね」
横から声がして、振り向くと好青年が立っている。
「あ、彼大月くん。前のバイト先が一緒だったんだ」
佑香がニコニコとして言った。
「あ、どうも。大月です」
「どうも……バイト先……ってどこだっけ?」
「あ、マムリーマートです」
「スーパー?」
「レジ一緒でした。えっとノダーマンさん」
「野田です」
「野田さん、それじゃあ、僕はそろそろ」
大月君は人懐っこい笑みを浮かべてわたると佑香に挨拶した後、ギャラリーを出て行く。
「流石お前の知り合い。だけど、いい人そうだね」
「いい人だよ」
「彼氏?」
「いや……そういうんじゃないけど」
「ふーん」
詮索されたくないといった雰囲気を佑香が出したので、わたるはそのままそれを流した。
わたるも今山本の話題を出されたら困る。
景子や真弓だったら構わず聞くのだろうが。
「ちょっと、道に迷った!」
数分後、真弓と景子が現れた。
「篠村ここ分かりにくいんだけど!」
「本当。表参道近いならそう言ってよ。ラルフローレンのとこって言われたらすぐ分かったのに」
景子に続いて真弓が口を尖らせ言う。
相変わらずだなと思いつつ、わたるは佑香の描いた絵に集中した。
何かを振り切るように描かれたその絵は、普段おっとりとした彼女とは相対的なような表現方法で描かれている。
真っ赤な背景に真っ赤な人間が踊っているような絵や、真っ黒い人間が歪んだ時の中を駆け抜けて行く絵。
どれも激しいものばかりだ。
「何これ、篠村この人内臓出てるよ!病院行かなきゃ」
「いや、そういう表現なんでしょ。でも何で内臓出てるの?」
「なんで出ちゃったんだろうね?」
「自分が描いたんじゃん」
佑香の答えに真弓が声をあげて笑う。
「お前らうるせえよ。特に真弓」
「あ、わたる!来てたんなら言ってよ」
真弓が嬉しそうな表情で言った。
会うのは数週間ぶりな気がする。
最後に会ったのは、九月に行われた母校の文化祭以来だ。
「いや、入ってきた瞬間に分かるだろ」
「最近ファッション変わったから一瞬じゃ分からん。そう思わん?景子」
「分かる。大人っぽくなったよね」
「景子が人の事褒めるなんて珍しい」
「そうだよ、野田、うちのこと敬えよ」
「……どうも」
ため息をつく。
ため息をついたが心地が良い。
この無責任な発言達がわたるの落ち込んでいた心を明るくしていくのが分かった。
大学の友人達とはまた違ったこの関係。
ランドセルを脱いだばかりの頃から、様々な経験を共に乗り越えてきた友人達だからこそ……