あれから三日。


学校には行けていない。


軽い登校拒否だ。


原因不明の病に犯された。


嘘だ。山本に会いたくない。


それだけだ。


一体どんな顔して会えばいいのだろう。


面倒臭がりな部分は認めるが、人を傷つけてひょうひょうと生きて行けるほど、狡くもないつもりだ。



スマートフォンが電話の受信を告げる。


元彼もとい、今彼からだ。


結局寄りを戻した。


こんなことなら、山本と付き合わなければ良かったとわたるは後悔する。


「はい……?」


電話に出てからも頭の中は山本でいっぱいだ。


今が不満な訳じゃない。


でも、安堵と温もりが足りないと感じてしまうのは、傷つけた罰として背負っていかなければならないのだろう。


長い電話が終了した。


何か甘いものを取ろうと居間へ行き、冷蔵庫を開ける。


ハワイの有名なチョコレート土産をプリンにしたものが、三個程入っていた。


母親が友人から貰ったと昨日言っていたのを思い出す。


「……チョコレートプリン」


「あ、わたる。それ宮内さんとこからのおすそわけ。食べちゃって。わたる好きでしょ、甘い物」


母親が洗濯物を取り込みながら、わたるに声をかける。


「うん」


一瞬脳裏に山本がよぎったが、食べ物に罪はない。


食べ物を見て人間を思い出すことは、しない主義だ。


食器棚からスプーンを取り出し、ソファーに座って食べ始める。


ひんやりとしたプティングが口内を犯していった。


すこしばかり安心して、二口目を含む。


なんだかどーでもよくなってきた。全てが面倒くさい。



部屋に戻ってベッドに横になっていると、LINEがメッセージの受信を告げていた。


「……」


スマートフォンを手に取りメッセージを確認する。


中学からの友人、篠村佑香からだった。


文面から屈託の無い笑顔が浮かび上がる。


返信をすると電話がかかってきた。


「はい?」


「あ、ノダーマン元気?」


「ノダーマン言うな」


「あははは。こないだすっごい久々に真弓っちと電話しててさ」


「そうなんだ。あいつは大丈夫なの?」


「なんか、彼氏と別れたらしいよ。落ち込んでた」


「……まじか」


「でもまた好きな人出来たらしいから、大丈夫なんじゃない?」


「あいつは、本当何なんだよ」


「でも英語頑張ってるよね」


「まあ、あいつはそういうとこは頑張るよな。めんどくさいけど」


「あはっは」


「で、何か用があって連絡してきたんじゃないの?珍しいよね、篠村が電話自発的にしてくるの」


「いやさ。今度個展開催するから、遊びに来てよ」

「また、唐突だな」


突然の友人の個展開催にわたるは驚き、少しばかり声が大きく出てしまった。


「いやいや、半年かかって準備したんだよ。油絵F50の二枚描いたし」


「F50ってどのくらいの大きさなの?」


「うーん。人が複雑に絡み合って、三人入れるくらい」


「なんか、気持ち悪い図になることだけはよく分かった」


声に出して笑う。


「とりあえず、今週末から一週間やろうと思ってさ」


「学校は?」


「テスト週間後だから大丈夫」


篠村の清々しい声が電話越しに伝わってきた。


学校がやっている間に突然開催される個展。


突拍子もないことをするのは昔からだが、ここまで大きく何かをやるのは初めてだ。


「何かあったの?」


さりげなくわたるは聞いてみる。


「うーん、なんかやらなくちゃなって思ったんだよね」


回答ははぐらかされたのか、曖昧なものであったが、わたるは佑香の堅い決意を感じた。


きっとわたるの知らないところで彼女を動かす何かがあったのだろう。


「まあ、篠村が決めたことだし、うちが口を出す必要はないか。日曜ならあいてるから行くよ」


「うん、来て来て。多分日曜は景子も真弓っちも来ると思う」


「なんか、騒がしそうだな」


「楽しみだよね」


「まあね。何時くらいに行けばいいの?」


「空いてる時間が十一時から十九時だからその間に、おいでよ」


「分かった」


その後十分ほどの雑談を交え、電話を切った。


友人の声を聞いて落ち着いている自分がいる。