「いやあ、晴れてよかったな。暑いけど」
「ああ、うん。そうだね」
「予約三時からなんだけど、それまで何する?」
「今何時だっけ?」
「今は二時半」
「そっか……」
「何かあった?」
反応がいつもに比べて鈍いわたるを見て、山本は心配そうな表情で彼女の顔を覗き込んだ。
「いや……別にそういう訳じゃないんだけど」
「なんだよ、言えよ」
「……」
「……どうした?」
「……言えない」
「なんでだよ」
「だって、傷つける」
「今更だろ。何でも言えよ」
わたるの顔を覗き込むように、山本は腰をかがめる。
男の子の仕草をこんな時に見せないで欲しかった。
「……元彼が、今日会いたいって」
「……」
「……」
「……ま、まじか」
「……」
「わたるはどーしたいの?」
昨日から変わった呼び方。
落ち着いた声。
自分が思っているより、山本はずっと大人だ。
「……ごめん」
「気にすんなよ」
頭をポンポンと撫でる山本。
ここで優しくするのは反則だ。
罪悪感が増していく。
「……」
「で、何時からなの?」
「四時に大宮」
「もうそろそろ行かないと間に合わないんじゃねえの?」
「……いや、でもスイーツが」
「好きなんだろ?元彼のこと。こんなところで好きでもない男とスイーツ食ってる場合じゃねーだろ」
好きか嫌いかと言われれば嫌いじゃない。
ただ嫌な別れ方をした相手がずっと気になっていたのも事実だ。
「……ごめん。キャンセル料払うよ。今月ピンチだったんだよね」
「いらねーから。そしてこのタイミングでそれを言うのやめろ」
「ごめん……」
「あやまんなよ。俺がみじめになんだろ。路線調べてやろうか?」
「いや、いい。自分で調べながら行くよ」
「行ってこい。俺はその辺散歩しながら帰るから」
「……うん」
走ってその場を去る。
最悪なタイミングでカミングアウトした。
絶対傷つけた。
別れ際の無理矢理な山本の笑顔が頭から離れない。
一体どうしてこんな非情な事が出来たのか、自分でもわからなかった。