「あーあ、野田のせいで怒られた」


 講義室から次の教室へ移動する際に、山本が言う。


「じゃあ、次から違う席に座って」


「冷たいな、野田は」


「別にあんたと私付き合ってる訳じゃないし」


「……」


「……」


「……そうだよな」


言い過ぎたと後悔するが、言葉に出てしまったものは仕方がない。


暑い日差しの中鳴き続ける蝉の合唱が二人を包む。


「……あの」


 微妙に罪悪感を感じ言葉を紡ごうとした際に


「じゃあ、付き合ってみない?」


といった唐突な山本の言葉にわたるは驚き顔を上げる。


「……は?」


「野田って彼氏いないんだろ?お試しでさ」


「なんか、嫌」


「どこが?」


「その適当な感じが」


「……そっか。分かった。こう言えばいいんだろ。愛してるぜ、ハニー。俺と付き合ったら甘い毎日が待ってるぜ」


「それのどこが真剣なんだよ」


「いっとくけど、こういうの初めてなんだぞ」


「いばる必要性はないと思う」


「じゃあ、真剣に告白したら、付き合ってくれるの?」


途端真剣な表情になって山本は言った。


「……山本のこと嫌いじゃないけど、よく知らないし」


「これから知ればいいじゃん」


「それに、元彼ともまだ連絡取ってるし」


「そいつのことまだ好きなの?」


「それはないけど」


「じゃあ、自然にこっちに流れてくればいいじゃん」


「……何で私なの?」


「うーん、楽そうだから」


「……ら、楽って何?」


「俺、中身が女の子、女の子してるの嫌いなんだわ」


「ああ、そう。悪かったね、女らしくなくて」


「でも野田ってサッパリしてんじゃん。一緒に話してても楽しいしさ。そんな子と一緒に色んな経験出来たら幸せかなって思ってしまった訳よ」


「……そりゃどうも」


「まずは一週間。スイーツ食べ放題、仕方ないからつけよう。何てお得。どうだ?」


指をパチンと鳴らして、山本は笑う。

それに釣られてわたるも笑った。悪くないかもしれない。


「山本って絶対恋愛経験値低い。よろしく、彼氏」


「よっしゃ。経験値上げてくれよ、頼むぜ彼女」


そうして一週間の恋人同士といったお試し期間がスタートした。