しかし、次の日になってもオースティンからメールは来なかった。


やはりあのくしゃみがいけなかったのだろうか。


悶々と考えているうちに、授業の終了を告げる合図が鳴る。


全く集中していなかったせいで、テスト範囲に出題されるらしい理論の内容を全く聞いていなかった。


近くに座っていた友達まきちゃんにその時間のプリントを借りコピーさせてもらう。


「珍しいね。後藤ちゃんが授業聞いてないとか」


「まあね……ちょっと、悩み事が」


「どうしたの?」


「いや、今ちょっと」


「分かった、恋愛でしょ」


言いあてられてすこしばかり動揺する。


「まあ……今回は相手がちょっとね」


「まさか、不倫とか?」


「まさか。ちょっと、まきちゃんウキウキした顔し過ぎだから」


「彼氏の浮気?」


まきちゃんは身を乗り出して、真弓に尋ねてきた。


意外にゴシップ好きなのかもしれない。


「いやあ……付き合ってないんだけど、好きな人が外国の人でさ」


「うわ、すごいね。それ」


意外にゴシップ好きのまきちゃんは、身を乗り出して言った。


「やっぱり?」


「言葉とかどうしてるの?」


「英語と日本語って感じかな」


「カッコイイね」


「全然カッコ良くないよ。昨日デートで失敗しちゃってメール返事こないし」


「まさか……食べられちゃったとか」


「ううん、オヤジくさいくしゃみしちゃった」


「それは……大丈夫じゃない?」


「本当に?ムードばっちりなところで、もしかしたら、いい感じになったかもしれなかったんだよ?そこで大きなくしゃみしちゃっても大丈夫なのかな?」


「うーん……そんなんでメール返さないってことはないんじゃない?」


「ありがとう。まきちゃん」


「いや、なんか悩んでる内容が乙女でビックリしちゃった」


真弓の外見を見つつ、まきちゃんは言う。


「どういうこと?」


「いや、だって。後藤ちゃんって普通に社会人の彼氏とかいそうだし。恋愛の悩みとかもっと大人な感じだと思ってた」


「充分大人だよ。くしゃみだって」


言い返す真弓にまきちゃんは笑った。

こういう時友人に話を聞いてもらうと安心する。


それから二日後。オースティンからメールが届いた。


「I lost my phone. If I have chance I want to contact you. I look forward to see you soon if possible. (携帯を落としちゃったんだ。もしよかったら君と会いたい。可能なら君と会える事を楽しみにしているよ)」


本当に落としたの?と言いたいところだが、そんな事を言っていても仕方がない。


真弓は返信を送った。


次の待ち合わせ場所は渋谷駅だった。


この間は横浜まで来てくれたから、今度は東京とで会おうというオースティンの提案に互いの家の中間地点を考えたところ渋谷が丁度良いという話になったのである。