「でも、普通すぐしない?」
「うちはしないけど……」
「えー」
「もう少し待ってみれば?それか、自分からしてみるとか」
「英語でメールってどうすんの?」
「知らないよ。うちの英語力なめんな」
「冷たい」
「リア充には冷たいんだ。うち」
「リア充なのはわたるじゃん。こーすけ君、こーすけ君」
「人の彼氏の名前連呼すんな」
笑いながら、わたるは言った。
電話の向こうから「俺がどーした?」という声が聞こえてくる。
「えー、朝帰り?やらしーい。わたるのエッチー。へんたーい。ちゃんと服は着てる?」
「着てるわ!あー、もう。両側で喚くな」
「アハハハ。わたるが困ってる」
「そんだけ笑えれば、大丈夫そうだな。とにかく、お前は心配し過ぎなんだよ。昨日の今日なんだろ?メール来るって。
今時メールってのもなかなか珍しいけど」
「うーん、分かった」
「じゃあ、うち学校行くから。また何かあったらLINEしろよ」
「男前だな。リア充マスターワタルは」
「ポケモンみたいに言うな。じゃあ、切るぞ」
「うん、話聞いてくれてありがとう」
「おう。ちょっと、こーすけ。引っ付くな。邪魔」
そこで電話が切れる。リア充大爆発だ。
「なんか 、彼氏って。やっぱいいなー」
呟きながら、移動を開始する。
次の授業まで後三分。
遅れてもいいや。
と昨日新しくしたスマートフォンのカバーを眺める。
やっぱり値段がはるだけあって可愛い。
バイブがメールの受信を告げた。
手の中で振動するそれの画面を起動し、受信BOXを開く。
「あ……」
表示された名前は、Austin(オースティン)と書かれていた。
わたる相手に電話で駄々をこねる必要はなかったのでないか。
高鳴る鼓動を抑え、メールを開く。
「Hey How are u:) thank u yesterday. I enjoyed talk with u. I would also like to see u again.(やあ、元気? 昨日はありがとう。君と一緒に話せて楽しかったよ。また会いたいね)」
昨日の夢の続きを見てもいいようだ。
「このuってのは何?」
独り言を二限目の授業の教室内で一番後ろの席に座り呟く。
日本語のメールとは全く異なるその文章の解読を、ノートを広げ、英文を書き込みながら考えた。
「ああ、you(あなた)か!成程」
スマートフォンの便利なところは、インターネットにすぐ接続出来るところである。
「u」の意味が分かったところで、返信を考えた。
会話は間違っても、ジェスチャーなどで何とかなる。
メールはどうだろうか。
なんとか返信をすると、すぐにメールが返ってくる。
「are you free this weekend?(今週末あいてる?)」
たったの五つの英単語で、心臓が飛び上がる程嬉しい。
全て中学の頃に習うものばかりだ。
こんな簡単な単語の羅列に、自分が振り回されるなど考えただろうか。
いや、そんな事考えたこともなかった。
にやける顔を必死に抑え、返信文を考える。
家に置きっぱなしの電子辞書が生まれて初めて恋しくなった。
結局授業を全く聞かないまま、次の日曜日のデートまで漕ぎ着ける。
集合場所は横浜駅、時間は十七時。
今日はまだ月曜日だ。まだ日曜日は遠い。