次の日は、一限目から学校だった。
行動経済学。
人はどうして合理的な行動を頭では理解しているのにも関わらず、実践出来ないシーンが幾重にもあるのか。
「君たちの身近な例として、合コンで可愛くない子を連れてく事で、自分の方が可愛く見える。それが行動経済学的にも証明されているんだ」
教室内で笑い声が上がる。
一限目にも関わらず、授業を取っている学生は多い。
少々やる気のない女子大の中では比較的に、人気のある授業だ。
新着メールなし。
笑い声の余韻が教室内に残る中、真弓は溜息をつく。
昨夜の出来事はやはり非日常の中のものであって、次の日になってしまえば、消え去ってしまうものだったのだろうか。
教壇の上に立つ教授の話は移行し、落としてしまった一万円の価値と拾った一万円の価値の差をプロスペクト理論と呼ばれる図を黒板の中に真っ白なチョークで書き込みながら説明している。
開いたノートにフリーハンドでその図を書き写し、真弓はスマートフォンを開き、アドレス帳を開いた。
「連絡する」と言ったうちの何%が本当の言葉であったのか、分からない。
確率は自分で上げるべきなのだろうという事は分かっている。
しかし、どうやってアクションを起こしていいのか、分からない。
横文字が並ぶ名前の中から、Austin(オースティン)という名前を見つめる。
アドレスが表示されている部分を押すと、メール作成の画面に切り替わった。
「Hello……こんにちは、ハローって今どき使うのかな?」
流行り言葉も知らない。
教科書の中から切り取ったような定型文しか作れない。
文化の差異をこんなところで思い知らされるとは思わなかった。