それから三十分はあっという間に過ぎ去り、気がつけば司会者が終了の合図を告げている。


「みなさん。本日は本当にありがとうございました。サンキュー!」


拍手喝采の中、オースティンの方を見た。


これで終了なのだと思うと名残惜しい気分である。


見つめているとすぐに、異国の青年は気がついた。


「ナンダ?」


合コン先の男の子にはすぐに連絡先を聞くことが出来るのに、どうして国が変わっただけで委縮してしまうのだろうか。


「バイバイだね」


手を振る。さみしい。


「Wait, wait! Can you give me your e-mail address?(待った、待った。メールアドレス教えて)」


ポケットの中から出てきたのは紫色のガラパコス携帯。


「パープル?」


「I like purple.(好きなんだ、紫)」


しかもLINEやってないのかよ。


真弓のスマートフォンに表示されたバーコードリーダーから電話番号とアドレスを読み取る。


順番にアドレスを交換した。


アドレス帳の中に現れた横文字の名前。


「今日は本当にありがとう。また連絡するよ」そう言ってオースティンは去って行った。




呆気ない別れに、一つため息をつく。


「バイバイ」


呟いて、友人の姿を探した。


自分から行かなくちゃいけないと相手に言ったはずなのに、あっさり離れて行かれてしまって寂しいだなんておかしい。


「あ、真弓。いたいた。二次会が本当の勝負だからね」


「うん」


「なんか、元気ない。なんかあったか?断られたのか?」


「ううん、アドレス教えて向こうは帰ってった。またメールするって。ってか今時メール」


「え、LINEやってないの?」


「ガラケーだった」


「これだけアップル社が世界を制圧している中で、なかなか面白い男だね」


「うーん。なんかな」


「この会場で何人の女子が連絡交換出来たと思ってんの?」


「さあ?」


「多分、真弓さんだけだと思うけど。さっき、男の子と何人か携帯見せてしゃべってた以外携帯出してなかったし」


「うわ、アドレス公開されてたらどうしよう」


「そっちの心配?なんか最低」


「だって、よく考えたら怖くない?」


「さっきのドキドキした様子はどうした?」


「なんか急に冷静になってきた」


「まだ、パーティーは終了してませんよ。これからが本番ですからね、お姉さん」


「そうだよね。公開されたら、アドレス変えればいいよね」


「大丈夫だって。心配なら彼氏にあの人の情報聞いてあげようか。多分フェイスブックかなんかで繋がってそうじゃん」


「うん、お願い」


任せてとゆかりは笑い、彼氏の方へ向って行く。


しばらく経って戻ってきた友人の言葉に真弓はがっかりするのだった。


「ごめん、知らないみたい。多分、他の人の紹介の紹介で来たかもしれないって」


「そうなんだ……」


笑顔で会場を去っていく。


オースティンの姿を真弓は見えなくなるまでずっと見ていた。


話をしている間の二時間は本当に楽しいと感じたのである。


だがそれはある特別な異空間の中で、いわば非日常体験をして舞い上がっていただけなのではないか。


外国人と話しをした。二時間も。


私ってグローバル。


ため息をつく。


終焉を迎えて目が覚めた。


いずれ帰国してしまうであろう相手の事を考えたとしても仕方がない。


この後どうにかなったところで、どうせ遊びだ。発展のしようがない。



パーティーが終了して、ゆかりの言っていた本番とやらがスタートした。


会場は場所が移り、近くのダイニングバーである。


数十種類の酒が並ぶカウンターを背に、招待された面々が英語、日本語交え自己紹介をした。


同じ外国人のはずなのに、会話が盛り上がらない。


にこやかにほほ笑まれても先ほどのように、うまく笑う事が出来ない理由に真弓は気付かないふりをする。


「真弓、あんた外国人にもてるね。真剣に国際結婚考えたら?多分いけるよ」


酔っ払いながら、ゆかりは笑っていた。スマートフォンの中のLINEの友だちの行は横文字でいっぱいになっていた。