ゆかりが真弓の前に再び登場したのは、三杯目の酒をオースティンが買いに行っている最中だった。
「真弓、どう?」
「うん。楽しんでるよ。どこいたの?」
「彼氏と舞台裏に」
「そうですか。探したのよ」
「まじか。ごめん。でもよかったよ」
「何が?」
「さっきからイケメンの外人とずっと一緒にいるじゃん」
「通訳頼まれてただけだよ」
「えー、マジで。だってあの人最初からパーティーいたけど、他の女の子が声かけてもすぐどっか行っちゃってたよ」
「そうなんだ。でも、遊んでそう」
「遊んでそうなのは、あんたもでしょ。肉食系女子め。今月何件合コン行ったのさ」
「四件。うち一件は自分の知り合いのみでの合コン。あれが一番楽しかった」
「うーん、立派に遊び人街道まっしぐらだね。ってかうちも呼んでよ。そんなにやってるんだったら」
「ゆかり、彼氏いるじゃん」
「まあ、時には楽しみも必要ってことで。それより、連絡先聞いちゃいなよ」
「えー、だって向こう日本語あんまり出来ないし」
「真弓が英語で頑張ればいいじゃん。目指せ国際結婚」
「でもな……向こうにその気がなかったら、恥ずかしくない?お前、ちょっと英語話せるからってその気になってんじゃねーよ。みたいな」
「うわー、それ鬼畜。でもさ、ちゃんと周りの女の子の視線見てた?すごかったよ、何あの子。的な。だから大丈夫だと思うんだけど。ほら、女の子って良くも悪くもちゃんと見てんじゃん?だから向こうも楽しかったんじゃないかと思うわけなのですが」
「分析の仕方がなんかマニアック」
苦笑いを浮かべ、真弓は一時間程前にオースティンから貰ったカシスオレンジのグラスを覗き込む。
すっかり氷は溶けてしまった。
水滴が真弓の掌を濡らす。
確かに、ここで何もアクションを起こさなければ、今夜の出来ごとはまるで夢のように消えてなくなってしまうような気がした。
「Hi, Is she your friend?(やあ、彼女は君の友達?)」
「ハロー、よろしく。じゃあ、頑張って。バーイ」
戻ってきたオーシスティンに軽く挨拶をした後、気を利かしてか、ゆかりはその場を去っていく。
ニヤニヤしているのは気のせいだと、真弓は思うことにした。