その日はもう客が入らないだろうといった店長の予想で、佑香と大月は早く上がって良いと言われた。


二人は更衣室で着替えた後、休憩室で待ち合わせ自転車置き場へと肩を並べて歩く。


「今日はラッキーだったね」


大月の言葉に「そうですね」と返す。


自転車置き場に到着すると、大月は思い出したようにリュックサックの中から佑香が貸したDVDの入った袋を取り出し、彼女に手渡した。


「これ、本当に面白かった。泣いちゃったよ、ラスト。俺生まれ変わったらあの主人公の兄貴になりたい」


「兄貴いいですよね。私も何度も泣きました」


顔を見合わせ笑う。


自転車はどちらかが言った訳でもないのにも関わらず、手で押していた。


話しながら歩き続け、分かれ道にさしかかる。


「……なんか、話足りないね」


大月が言った言葉をきっかけに、二人は近くの公園で話を続ける事にした。


早上がりをした為に、親に告げている帰宅の時間にはまだ時間がある。


夜の公園は子供がいない分静かで、少し不気味だ。


ベンチの両脇に自分達のカラフルな自転車を止めて、自動販売機で飲料を買おうと財布から小銭を取り出す。


「あ。コンソメスープ」


自動販売機に自分の好んで飲んでいるコンソメスープが缶となって売っている事に気がついた佑香は思わず声をあげた。


「コンソメスープなんて自動販売機で売ってるんだ」


「これ、美味しいんですよ」


「ふーん。買ってみようかな」


佑香が勧めたコンソメスープのボタンを大月は小銭を自動販売機に投入した後に押す。



ガコンと音がして、缶に入った佑香のお気に入りの液体が大月の大きな手のひらに掴まれた。


佑香も続いて同じボタンを押す。


ベンチに並んで同じスープを飲みながら、話を続けた。生ぬるいしけった夜風が二人を包む。


もうすぐ梅雨時期だ。


雨雲が近付いているのかもしれない。


話が盛り上がり、時計を見ると既に十二時を回っていた。


早上がりをしたのが午後九時半であったから、既に二時間半以上もベンチに座って話していたことになる。


手に持ったコンソメスープはすっかり冷めて佑香の手のひらの温度と同じになっていた。


「やばい、帰らなきゃ」


「もしかして親厳しい?」


心配そうに言う大月に、佑香は頷く。


何故か分からないが、不安が胸中に渦巻いていた。


携帯電話を開くと、自宅から着信が何件も入っている。


「やばい。どうしよう」


慌てる佑香に大月は「送ろうか?」と言ったが、佑香はそれを断った。


怒られる際に大月を巻き込みたくない。


「また、バイトで会ったらよろしくね」


佑香は大月にそう言うと、自転車にまたがり自宅へと急いだ。