次の日は昨日の疲れが残っていた為に、佑香は絵を描かなかった。
その次の日も、何故か絵を描くような気分にはなれず、学校に行くも授業に集中出来ていなかった。
何が理由かと聞かれると分からないのだが、頭の中に浮かんでいたインスピレーションが何も生じないのである。
いつもなら学校に遅くまで残り、絵を描いていたのだが、その日も次の日も学校を早く後にしてしまっていた。
その日はアルバイトの日で、佑香は大月の顔を思い浮かべながら自転車置き場に自分の自転車を止める。
すると、そこには佑香と同じ型の自転車が止まっていた。
もしかしたらと、慌てて更衣室へ入り、着替えて休憩室へ行くとそこには大月が休憩をとっている最中だった。
「あ、篠村さん。こないだはどうも」
柔らかい笑みを浮かべて大月は佑香に挨拶する。
「はい。楽しかったですね。今日シフト入ってなかったんじゃ……」
「ああ、中村が卒論の関係でまた京都に行くらしくて、代わりに入ったんだ。だから今日は棚おろしとか納品チェックの方なんだけどね」
「そうなんですね。いないと思って来たから、いてビックリしちゃいました」
「でも自転車で分かったでしょ」
同じ自転車だしね、と言う大月。
自分の自転車と全く同じ型の自転車でお互いの存在に気がつくなんて、なんか少しロマンチックだなど柄にもないような事をふと頭の中で考え、佑香はアルバイトを開始した。
その日は全くお客の入らない日で、いつもは込み始める時間帯になってもあまりお客は入っていない。
「今日どうしたんだろうね」
レジの近くの棚に菓子を並べながら、大月はレジに立っている佑香に話しかけた。
「どうしてでしょうね?」
佑香もレジ越しに大月に話しかける。
大月の手によって並べられていく菓子は佑香の気に入っている商品の一つだ。
「そういえば、借りたDVD全部見たから、今日の帰りに返すよ」
「どうでした?」
「最高だった!徹夜で見たよ。続きが気になりすぎて」
ケースの中に入っている菓子を全て棚に入れ終えた後、大月は佑香の立っているレジから去って行く。
大月の姿が見えなくなった後、佑香は彼との会話を頭の中で反芻させた。たった少しの会話で幸せになれるのは、何故なのだろう。