昼食を鶴岡八幡宮の傍にある全国チェーン店の中華料理屋で済ませた後、小林が「俺と中村はちょっと鎌倉宮に行ってくるけど、お前らはどうする?」と尋ねる。
彼らの本当の目的は海ではなく、鎌倉時代末期に命を絶った当時天皇であった後醍醐天皇の息子の護良親王を明治天皇が奉った神社であったらしい。
どうやら学校の卒業論文でそれについて調べるというとのことだった。
「どうしようか?」
歴史に詳しくない佑香は鎌倉宮がどこにあるのかも知らなかったし、後醍醐天皇というワードは学校で習った気もするが、護良親王という人物が鎌倉に奉られている事を初めて知った。
鎌倉と言えば源頼朝や北条政子の印象が強い。
詳しく説明をされたので、一緒に行くものだとばかり考えていたが大月の
「俺たちは鶴岡八幡宮付近うろうろしてるよ」
といった言葉で、別行動もありなのだと言う事が分かった。
男の子は集団で行動する女の子よりも少しばかりフランクだ。
「分かったじゃあ、二時にここに集合な」
時計は現在十二時半を指している。そう言って一旦解散した。
「大月さんはいいんですか?調べなくても」
何気に佑香は大月に尋ねる。
「俺の卒論は古代エジプトについてだから、今回は大丈夫。それにあいつらの調べてることマニアック過ぎて俺も分かんないし。あいつら静岡とか京都にまで行って調べてるからすごいんだよな」
笑いながら言う大月に佑香も同意した。
確かに護良親王の他に出て来た女性の名前や、家臣の名前など間違えることなくスラスラと言っていた気がする。
あまりに多すぎて覚えていないが。
「とりあえずソフトクリームでも食べない?」
「いいですね!食べましょう」
大月の提案に、佑香は大賛成だった。
再集合までの時間、佑香と大月は一緒にお参りをしたり人力車に乗ったりなど観光を楽しむ。
その間佑香と大月は車の中で見たグレンラゴンや共通の話題であるコレナドのアニメの話の展開についてずっと語り合っていた。
人力車ではあまりにコレナドの父親役が子供を可愛がっていたかについて白熱して話していた為に、引き手のお兄さんが「いいお父さんですね。それはどこの家庭の話?」と聞いた程である。
その日はあっという間に時間が過ぎ、夕飯を鎌倉で有名なラーメン屋で済ませてから車は再び自宅の埼玉の方へ向かっていた。
帰宅したのは午前零時を回っており、事前に遠出すると言っていたとあっても、流石に心配そうな面持ちの母親が佑香の帰りを待っていた。
「遅かったわね。何かあったのかと思って心配しちゃったわ」
「ごめん。帰りの高速が混んじゃって……」
本当の理由を述べ、佑香は自室へと戻る。
部屋の中に入ると油絵の具の香りが、彼女を包んだ。
しかし身体が疲れている為か、佑香はベッドに倒れこみそのまま寝てしまう。
絵はまた明日描けばいいと思いながら。