すっかり夢中になって、気がつけばもう学校を出ないとアルバイトの時間に間に合わないような時間になってしまっていた。


佑香は慌てて画材を片づけ、準備をする。


電車に乗って、時間を調べるとギリギリ間に合いそうだ。


一旦帰宅して、画材を置いてこようかと思ったのだが、難しそうである。


「お疲れ様です」


なんとか間に合い、棚おろしをしているパートのチーフに挨拶をした。


「篠村さん、急いで」


「はい」


タイムカードを押し、更衣室に入り、着替える。


「おはようございます」


決まった挨拶をして、レジに入る。


従業員だけに渡されているレジ専用の鍵をレジに差し込み、自分のID番号をタッチパネルに入力した。


佑香がレジに立った瞬間、買い物客が会計をする為に並び始める。


一つ一つ丁寧に対応しながら、佑香は今晩描く絵の事を考えていた。



スーパーも閉まる時間帯になり、佑香は帰る支度をしていると、私服姿の大月と遭遇した。


「あれ?篠村さん今日入ってたの?」


「はい。大月さんは?」


「俺は来月のシフトの紙を提出しに。篠村さんはもう出した?」


「はい、さっき店長に渡しました」


「まじか。店長どこにいるかな?」


「多分裏で精算してると思いますよ」


休憩室の方を指さし、佑香は大月に示す。


大月は頷き「分かった」と言った後、


「あ、そうだ。篠村さん、もう上がりだよね?」


と言葉を続けた。


「はい」


「よかったら一緒に帰らない?アニメの話したいしさ」


喜々とした表情の大月に佑香は頷き了承の意を伝える。


佑香も一緒に帰れればいいなと大月の顔を見た瞬間思ったのだ。


着替えを済ませ、休憩室へ行くと大月がパイプ椅子に座って待っていた。


大月の後ろでは店長は一生懸命にその日の売り上げを精算している。


「お疲れ様」


「お疲れ様です」


店長に挨拶をして、二人は休憩室を後にした。


「今日は自転車?」


「いえ、今日は学校だったんで、徒歩です」


「そっか、俺自転車で来ちゃったから、一瞬自転車置き場の方に寄ってもいい?」


「勿論いいですよ。……あ!グレンラゴンのDVD」


「ああ、いいよ。今度で」


「大月さん次いつシフト入ってます?」


「うーん、次は確か金曜日。篠村さんは?」


「私はもう今週入ってないんですよね……来週は水曜日と木曜日入ってるんですけど」


「ああ、俺その日入ってないわ……」


タイミングが合わないねと互いに苦笑し合う。

大月が自転車置き場で佑香とお揃いの自転車を取り出している間、佑香はDVDをいつ貸せばいいのかと頭の中で必死に計算した。


しかし、自転車を大月が取り出し一緒に歩き始めても答えが出ない。


「ううん……DVD……」


「まだ考えてくれてたの?」


驚いたように大月が笑った。


「はい。やっぱりグレンラゴン見てほしいし。でもなかなか会えないし……」


「じゃあさ。提案なんだけど、今度の土曜日ってあいてる?」


唸る佑香に大月が言葉をかける。


「土曜日ですか?はい。あいてますけど」


「ここのバイトの男三人で車で海行こうかって話になってるんだけど、よかったら篠村さんも行かない?持ち物DVDって感じで。みんな俺と同じ大学でアニメとかも好きなやつだし」


「海でアニメですか。いいですね」


「まあ、シーズンじゃないから海にはどっぷり入れないと思うけど。一緒にいく?」


「行きます」


土曜日は来月にあるコンクルールの為の絵を描こうと思っていたが、大月から提示された海の誘いが佑香にとって魅力溢れるもので一瞬にして了承の意を伝えた。


絵は日曜日に描けばいいのだからと自分に言い聞かせて。


それに、佑香はグレンラゴンの話を早く大月としたかった。