「だから、好きかどうかなんてまだ分からないって」
「だって、篠村今まで大学の男子とかの話しても興味なさ気だったじゃん。恋だよ」
「そうなのかな?」
彼氏持ちの景子にはっきり言い切られると、そんなような気もしてきた。
「で、どんな人?イケメン?身長は?」
「身長は高くて、イケメンかどうかは分からないけど爽やかだよ。趣味がかなり一緒で」
「じゃあ、アニメとか好きなの?」
中学一年生からクラスが殆ど一緒の景子。
佑香の趣味に関しては少しばかり詳しい。
「うん、ガンダムとか、コレナドとかグレンラゴンとか結構好きなものかぶってるんだよね」
「ガンダムは知ってる。じゃあ、あだ名ガンダムで決定」
ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべて、景子は言った。
「え!やだよ。大月君って言うのに」
彼氏の前では絶対見せないであろう景子の本性に辟易しながらも、佑香は反論する。
「だって、名前とかいちいち覚えてられないもん。うちの彼氏の先生の事、真弓がバンドマンってあだ名つけたから、うちも篠村の好きな人のことガンダムって呼ぶ。それで、ガンダムとはどんな感じなの?」
「大月君だって。まだ一回バイト帰りに一緒に帰っただけだよ」
「いいじゃん、ガンダムいっきまーす」
「やめてよ。それを言うならアムロいっきまーすでしょ」
「どっちでもいいよ」
笑いながら景子が言っていると、注文していたランチセットが運ばれてきた。
散々喋って食べた後、景子はこれからまだ授業があると言うので足早に去っていく。
「じゃあ、またね。ガンダムとなんか進展あったら教えて」
「だから、大月君だって。ばいばーい」
景子の後ろ姿を見送った後、佑香も自分のアトリエに向かった。
今日の授業であった抽象表現を自分でも試してみたい。
そう思い、ロッカーの中にしまった自身の画材道具を取り出し、キャンバスの前に座る。
休み前に気に入らなかった作品を白い絵の具で上塗りしたのだが、充分に乾いているので、佑香はそのキャンバスを床の上に置いた。
油絵の具用のシートの上に、油絵の具の好きな色を出し、筆にたっぷりつける。
一呼吸置いた後、佑香はそれをキャンバスの上に垂らしていった。
ポロックの作品を模倣しようと思ったのだが、何故か形ある物を描いてしまう。
そこにあるのは、見た事のあるようなキャラクターの絵が出来ていた。
抽象って難しいけれど、面白い。