月曜日が始まると、昨日と同じような天気でも風景が異なって見える。


家に画材一式を持って帰ってしまった為に、もう一度学校へ画材を持って行かなくてはならない。


大学に置いてある呼びの筆や絵具を使ってもいいのだが、気に入っている筆とそうでない筆がある為に、気に入っている筆で描きたいので佑香は持って行っている。


「あ、篠村じゃん」


大学の敷地内に足を踏み入れようとした時、背後から声をかけられ振り返ると、中学、高校と殆ど同じクラスだった緑山景子がいた。


景子の通う大学と佑香の通う美大は近所にある為に、時々会う事がある。


「あ、景子。おはよう」


「なんか、家で少女みたくなってるけど、大丈夫なの?重そう」


「ガラガラで引いてるから重くないよ」


「そうなんだ。ってかさ、今日昼あいてる?」


「あいてるけど、どうしたの?」


「なんかさ、今日ちょっと相談したいことがあるんだよね」


「相談?」


「ってか話を聞いてもらいたいっていうか」


「いいけど」


「よっし。じゃあ、十二時になったらLINEする。バイバイ」


嵐のようにあっという間に去っていく景子。


佑香は再び歩き始め、腕時計で時間を確認した。


一限は九時から、現在八時四十五分。まだ充分間に合う。


大学の購買部で、コバルトブルーの油絵の具を購入した。


佑香の美大のいいところは、大学内に画材が販売されているところである。


授業開始の鐘が鳴って、佑香は走る。


一限目はアメリカの現代美術という授業だ。


アメリカ現代美術画家達の絵画を講師がプロジェクターを使って構図解説をする。


中世の画家達とは一味違った世界観。


「ということで、五十年代のアメリカではこのジャクソン・ポロックらの絵が中心的となって抽象表現主義は広まっていった訳です。ゴッホやモネのような写実的な作品とはまた違った解釈が、この抽象というものは出来て面白いですね」


ノートも開かず、佑香は熱中してプロジェクターを見つめる。


ジャクソン・ポロック。確か、百周年を記念して映画が製作された上に日本でも東京国立近代美術館で展示会が開催されるって報道されていたな。と数カ月前のテレビニュースを佑香は思い出した。


棒の先から絵の具を垂らしつつ作品を作り上げていくその技法は、学ぶべき点がいくつもある。


「では次の絵画を見て行きましょう」


 教授はそう言って、プロジェクターの絵を変える。


しかし、佑香の頭の中にはジャクソン・ポロックの描いた絵画が頭の中にいつまでも鮮明に残っていた。