…!


私は急いでレイの隣に乗ると同時に

見慣れないスーツ姿のレイに、つい目を奪われる。



…バーテンの格好と違って、今日は何だか紳士的だな…。

こうして見ると、やっぱりレイも大人だ。



確か、レイは二十二歳だと言っていた。

五歳の差って、大きいんだな…。



と、その時

レイが眉間にシワを寄せながら、ドスの利いた声で低く言った。



「…会場に着いたら、必ず探し出してやる。

偽物め…今日がお前の命日だ…!」



前言撤回。

やっぱり、レイの中身は子供だ。



私は、そんなレイに少し緊張しながら話しかける。



「レイ、ドレスのサイズぴったりだったよ。

…変じゃないかな?」



心の中では、またあの夜のような優しい表情を期待する。


しかし、レイは、ちらり、と私に視線を向けそしてぶっきらぼうに答えた。




「まぁ、ガキには見えないな。

それなりにパーティに溶け込めるだろ。」



…!


そ、そういう言葉を聞きたいんじゃないのに…。


やっぱり、レイはギルじゃない。




じとっ、とした視線をレイに向けていると、運転席に座ったロディが、苦笑しながら私たちに声をかけた。



「レイ、そんな殺気立つな。今日は嬢ちゃんのボディガードだろ?

偽ギルに会えなくても、豪華な料理を無料で食えると思って楽しもうぜ。」





“豪華な料理”…!



それを聞いて、レイも私も気分が上がる。



「んじゃ、飛ばすぞ。

しっかりシートベルトしな。」



ロディの言葉に頷くと、

タバコに火をつけたロディは、勢いよくアクセルを踏んだ。


夜に包まれた街へと走る真っ赤な車を

月がどこか妖しく、不穏な光で照らしていた。




****




「あ、あのお屋敷じゃない?」



車を走らせ、まもなく約束の八時になる、といった時刻。


目の前に現れた大きな屋敷に、私は目を輝かせてそう口を開いた。



車の前方には、酒場が十軒入るのではないかと思う程の豪邸。


スーツやドレスを着た人々が洋風の門から
お屋敷へと入っていくのが見えた。




レイが、車の窓から豪邸を見上げて口を開いた。




「随分どデカい屋敷だな。

あの女、どんだけすげぇお嬢様なんだ?」



それを聞いたロディが少し目を細めて答える。




「…見た限り相当金持ちの家なんだろうが…

素性はあまり信用できそうにないな。」



え…?


私とレイがきょとん、とすると

それをミラー越しに見たロディが、ふー、と口から煙を吐いて呟いた。




「…最近急に金持ちになった家なのか、今までの経歴が出てこなかったんだ。

まぁ、こっちの話だ。気にする必要はない」




ロディは、シルバーナさんの家を調べたの?


…情報屋ってすごいんだな。



確かに、自分が関わる相手がどんな人なのか気になるよね。