……っ!!

そ…そうだけど…っ!



すると、レイは私から視線を逸らして続けた。



「ま、社交パーティは偽ギルのせいで仕方なく行くことになったからチャラにしてやる

ドレス代は本物のギルに請求しとくからお前は気にすんな。」




…!

“ギル”…。



その名前に、私は、はっ!とする。



急に黙り込んだ私に、レイは首を傾げて口を開いた。




「…?ルミナ、どうした?」




私は、少し躊躇しながら、レイに尋ねる。



「あの…ギルって、本当に彼女はいないのかな?」



「!!」




その瞬間

レイが大きく目を見開いた。



動揺したような表情に、私は戸惑う。



「な…何だよ、急に…。」



レイが少し震えた声で私に言った。

私は考えながら答える。




「昼間、シルバーナさんが酒場に来たでしょ…?

その時ロディが、“ギルはそういう存在を作らない男だ”って言ってたから…。」




私は、心の中に渦巻く不安を、言葉を選びながらレイに伝える。




「…私の存在のせいで、ギルが恋人を作らないんだとしたら……」



レイが、はっ、と息をした。



私は、きゅっ、と手のひらを握りしめる。



…ギルは二年間、ずっと私のために闇と戦ってきた。


私のせいで、ギルが縛られているのなら…

そう考えるだけで、心がすごく苦しくなる。




その時、ギシ…、と床が音を立てた。



…ぽん。



はっ、とした瞬間

私の頭に、優しい手が乗せられた。



「……何言ってんだよ、バーカ。」



言葉とは裏腹に、頭を撫でる手はひどく優しい。



「ギルは、自分の意思で一人でいるだけだよ。

…ルミナより大切に思える奴なんか、出来るわけないんだから。」



…!



かぁっ…!と顔が赤くなる。



甘い声が、心の奥まで入り込んで

体を芯から溶かしていく。



するとその時

私からレイが、ぱっ!と離れた。



お互い、動揺したように目を見合わせて
顔を背ける。



レイが、ぶっきらぼうな声で言った。



「……って、たぶんギルなら言うだろ。

変なこと気にすんな、もう寝ろ。」




部屋を出て行くレイの後ろ姿を、ドキドキがおさまらずに見つめる。



…レイが…こんなことを言うなんて…。



ぽーっ、としていると、レイは扉を閉める寸前、ピタリと立ち止まった。



そして、私の方を少しだけ振り向いて小さな声で呟いた。




「…体なんか鍛えなくていいんだよ。

ルミナのことは、ギルがどんなことをしてでも守るんだから。」



「……!」




……レイは、心臓に悪い。



何よりも嬉しい言葉をレイから聞けるなんて思ってもみなかった。



しかし、レイはいつもの感情を隠したポーカーフェイスで言葉を続ける。




「筋トレしてマッチョにでもなってみろ。

…そんな女、ギルだって守りたくなくなるだろーからな。無駄な努力はやめとけ。」




っ!

……この一言が無ければな…。



パタン、と閉まる扉を、私は無言で見つめていた。