「あのね…ギルのこと…なんだけど…。

私をずっと守ってきてくれた今のギルは
“二代目”だったの。」



私の言葉を、レイは黙って聞いていた。


私は、少し早口になりながら心を打ち明けていく。



「エンプティが過去の真実を話している時…ギルは必死にそれを止めようとしてくれたの。

私が、傷つかないように……。」



静かな酒場に、私の声だけが響く。



「耳を塞ごうと思えば出来たのに、私はそれが出来なかった。

ギルが積み上げてきたものをすべて壊して…エンプティの言葉を聞いてしまったの。」



その時

私の喉に、熱いものが込み上げてきた。


私は、必死でそれを押し込めながら言葉を続ける。


私の口からは、掠れた、か細い声しか出なかった。



「……お父さん……闇喰いだった…。

……人の命を…奪ってた……。」



「…!」



レイが、小さく呼吸をした音が聞こえた。

下を向いている私には、彼の顔は見えない。


私は、言葉が止まらない。



「私…何も知らなかった…。お父さんだけに辛い思いをさせて……っ。

気づいて…あげられなかった……!」



私が、そう言った

次の瞬間だった。



ぎゅっ……!



レイの腕が急に私の体を抱き寄せた。

強く、強く抱きしめられる。



何が起こったのかが理解できずに瞳を揺らしていると

耳元でレイの声が聞こえた。



「…お前は何も悪くないよ。

……ごめん。……ごめんな、ルミナ……。」



……!


一瞬、時が止まったような気がした。


レイの声は、少し震えていた。

まるで、ギルの言葉を代弁するかのようなセリフに、私は小さく答える。



「……どうして、レイが謝るの…?」


「………。」



レイは、私の言葉に答えなかった。

ただ、私を抱きしめたまま、離そうとはしなかった。


私は、レイの体温を感じながら、少しだけレイに体重を預けた。


もう、レイの優しさに抗えなくなっていた。



「…ギルはね、すごく優しいの。」



私の呟いた言葉に、レイは無言で私の肩に顔をうずめる。


私は、そんなレイに応えるようにして言葉を続けた。



「…ギルは、優しすぎるから…自分を責めてしまうから…。

ギルの前では…泣かないって決めてたの。」



レイが、小さく息をした。

私は、レイに向かって尋ねた。



「…レイ、私、少しは強くなれたかな…?」



「…!」



「…ギルに、“ありがとう”って…

…ちゃんと言えた………」



その時、今まで黙っていたレイが

小さく耳元で私の名前を呼んだ。



「ルミナ。」



私が、ぴくり、と反応して言葉を途切らすと

レイは小さく囁いた。



「…無理しなくていい。」