私はレイの言葉に、ふるふる、と首を振った。


そして、再びソファに座るレイの隣に腰を下ろして

レイに向かって言葉を続けた。



「レイが無事で良かった。

…あ、あのね、ロディからの伝言なんだけど…」



私が、ロディが傷を負って、その治療のため酒場に当分来れなくなることや、レイが逮捕されてからダウトに襲われた出来事を話していくと

レイはそれを無言で聞いていた。



私は、頷くだけのレイを見ながら続ける。



「それで…酒場から逃げる時に、レイの花壇を足場にしちゃったの。

花は踏まないように気をつけたんだけど、急いでたから…。壊れてたらごめんなさい。」



私は、少し躊躇しながらそうレイに伝えた。


…レイは毎日マメに手入れをしてたからなぁ…。

花壇が荒らされたら、怒るよね…?



しかし、レイは私の予想とは裏腹に

表情を全く変えずに静かに答えた。



「…ルミナが無事だったなら、いいよ。

別に、気にすんな。」



え…?


私は、つい目を見開いてレイを見上げる。


てっきり、“しっかり元どおりに直せ。”とか言われると思ってたのに…。

レイ、どこかいつもと違う…?



すると、その時

レイが私の方へと顔を向けた。


私を見つめるその瞳は、どこか弱々しく

レイの感情が揺らめいているような気がした。



どきん…



透き通るような碧眼に、私の胸が音を立てた。


レイは、まっすぐ私を見ながら口を開く。



「……ルミナは、大丈夫なのか?」



「え…?」



レイの質問に、心が揺れた。


私を見つめる彼の目は、まっすぐで、どこか悲しい。



至近距離で交わる視線。



だめだ…。

このままレイと話していたら、抑えていた感情が溢れ出しそうになる。



私は、レイから、ぱっ、と視線を逸らし
動揺を必死で押し込めながら答えた。



「だ、大丈夫だよ?

痛いところも、傷もないし……」



「そういうことじゃない。」



…!


隣から、レイの力強い声が聞こえた。


だんだんと鼓動が速くなる。


レイは、私の心を見透かすように囁いた。



「……何でも聞くから。

今考えてること、全部言えよ。」







どくん……!



さっきよりも大きく胸が鳴った。


体が、微かに震える。


レイの言葉が、私の心をこじ開けるようにして奥へと入ってくる。


私は、小さく呼吸をして、顔を伏せた。


その時、かつて聞いたルオンの言葉が頭に蘇る。



“僕で良かったら、話聞くよ?

…赤の他人にだからこそ話せることもあるだろうし。”



…他人にだから……話せること…。



私は、ぎゅっ、と手のひらを握りしめた。


そして、徐々に体の力を抜くように

ぽつり、ぽつり、と話し出した。