「…嬢ちゃん。」



その時、ロディが私の名前を呼んだ。

私は、ふいっ、とロディの方を向く。


すると、ロディは少しまつ毛を伏せながら言葉を続けた。



「ラドリーさんのこと…黙ってて悪かった。

……ギルのことも、辛かったよな。」



…!


ロディの言葉を聞いて、どきん、と胸が鳴った。



私は、動揺を隠すようにロディに答える。



「正直、まだ心の整理はついてないけど…

ギルの背負っているものが少しでも軽くなるなら、私はそれでいいの。」



真実を隠し、一人で背負いこむことがどれだけ辛く苦しいことか…

ギルの痛みは、私には想像もつかない。


本当は、エンプティではなく、ギルの口から聞きたかったというのが本音だけど

あの場でエンプティが言わなかったら、ギルは一生私に真実を語らなかったかもしれないし…。


その時

ロディが、ぽん、と私の頭に手を乗せた。


優しい手の感触に少し驚いて固まっていると

頭上からロディの低く艶のある声がした。



「…俺も、ギルと同じだ。

嬢ちゃんからシンが無くなっても、ずっと嬢ちゃんの味方だからな。」



「!」



ふいに、堪えているものが溢れそうになったが、私はぎゅっ、と唇を噛んで目を閉じた。


言葉に出来ないまま、こくり、と頷くと

ロディは小さく微笑んで歩き出した。



「帰ろう。酒場まで送る。」



私は、「うん…!」と返事をして

黒き狼の背中を追いかけたのだった。



****



「じゃあ、俺はモートンの所へ行く。

傷の治癒で、数日酒場に行けないかもしれないってレイに伝えといてくれ。」



酒場の前まで私を送ってくれたロディは

傷を手で撫でながら苦笑してそう言った。



「分かった。送ってくれてありがとう…!」


「じゃあな、嬢ちゃん。」



私は、コツコツ、と歩いていくロディの背中を見つめる。



…ロディが生きていてくれて、本当に良かった…。

胸の傷、早く完治するといいな…。



ロディの姿が裏道に消えたのを確認すると、私は小さく呼吸をして酒場の扉を開けた。



…キィ…。



扉の軋む音が、酒場に響く。


すると、私の目にソファに座っているレイの姿が映った。



…!



私は、はっ、と目を見開く。



「レイ…!大丈夫だった…?!」



私がそう声をかけて駆け寄ると

レイは私を見て、ぱっ、と立ち上がった。


そして、視線を逸らすことなく私に答える。



「あぁ。少し書類を書いただけで釈放されたんだ。

…ごめんな、心配かけて。」