「…嬢ちゃん。」
その時、ロディが私の名前を呼んだ。
私は、ふいっ、とロディの方を向く。
すると、ロディは少しまつ毛を伏せながら言葉を続けた。
「ラドリーさんのこと…黙ってて悪かった。
……ギルのことも、辛かったよな。」
…!
ロディの言葉を聞いて、どきん、と胸が鳴った。
私は、動揺を隠すようにロディに答える。
「正直、まだ心の整理はついてないけど…
ギルの背負っているものが少しでも軽くなるなら、私はそれでいいの。」
真実を隠し、一人で背負いこむことがどれだけ辛く苦しいことか…
ギルの痛みは、私には想像もつかない。
本当は、エンプティではなく、ギルの口から聞きたかったというのが本音だけど
あの場でエンプティが言わなかったら、ギルは一生私に真実を語らなかったかもしれないし…。
その時
ロディが、ぽん、と私の頭に手を乗せた。
優しい手の感触に少し驚いて固まっていると
頭上からロディの低く艶のある声がした。
「…俺も、ギルと同じだ。
嬢ちゃんからシンが無くなっても、ずっと嬢ちゃんの味方だからな。」
「!」
ふいに、堪えているものが溢れそうになったが、私はぎゅっ、と唇を噛んで目を閉じた。
言葉に出来ないまま、こくり、と頷くと
ロディは小さく微笑んで歩き出した。
「帰ろう。酒場まで送る。」
私は、「うん…!」と返事をして
黒き狼の背中を追いかけたのだった。
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「じゃあ、俺はモートンの所へ行く。
傷の治癒で、数日酒場に行けないかもしれないってレイに伝えといてくれ。」
酒場の前まで私を送ってくれたロディは
傷を手で撫でながら苦笑してそう言った。
「分かった。送ってくれてありがとう…!」
「じゃあな、嬢ちゃん。」
私は、コツコツ、と歩いていくロディの背中を見つめる。
…ロディが生きていてくれて、本当に良かった…。
胸の傷、早く完治するといいな…。
ロディの姿が裏道に消えたのを確認すると、私は小さく呼吸をして酒場の扉を開けた。
…キィ…。
扉の軋む音が、酒場に響く。
すると、私の目にソファに座っているレイの姿が映った。
…!
私は、はっ、と目を見開く。
「レイ…!大丈夫だった…?!」
私がそう声をかけて駆け寄ると
レイは私を見て、ぱっ、と立ち上がった。
そして、視線を逸らすことなく私に答える。
「あぁ。少し書類を書いただけで釈放されたんだ。
…ごめんな、心配かけて。」