一瞬の出来事に、私は地面に手をついて息を吐いた。
お父さんが私にかけた魔法が解けたんだ…!
すぅ…、とギルの魔力が消えた時
ギルは見つめていた手のひらを、ぎゅっ、と握りしめた。
その瞳からは、何よりも強い意志を感じた。
シンの魔力が、ギルの瞳の中でゆらりと揺らめく。
…ギル……。
私が、心の中で彼の名前を呼んだ時
ギルが、ふっ、と私を見た。
ぶつかる視線。
お互い、逸らすことはない。
ギルは、微かに唇を結んだ。
そして、ゆっくりと私に歩み寄る。
トッ…
ギルの腕が、さっきよりも優しく私を抱き寄せた。
服越しに感じるギルの体温。
視界に入る、破れた外套。
傷ついた腕。
耳元で、ギルが小さく呟いた。
「……シンは、誰にも渡さない。
ダウトにも、闇にも、光にも。」
…!
微かに体が震えた時
ギルは優しく言葉を続けた。
「…ルミナ。
僕は、ラドリーさんと約束をした。たとえルミナの中からシンが無くなっても、僕は君を守り続ける。」
“ルミナが、闇から狙われなくなっても”
“僕がそばにいる必要がなくなったとしても”
“僕は、君が呼べば、いつだってどこへだって駆けつける”
ギルの紡いだ言葉の意味が、心の中に溶け込んでいく。
…そんなわがまま、言えるわけない。
側にいて、なんて、言えるわけない。
でも、私はギルの腕の中から動くことができなかった。
その確かなギルの感触に、ふっ、と頭の中に答えが浮かぶ。
…あ、分かった…。
ギルと初めて会った時、なぜ懐かしいような気がしたのか。
その、私に触れる手の感触が
優しさと愛しさに溢れたその瞳が
記憶の中のお父さんと重なったからなんだ。
“…僕は、君を守るためだけの闇喰いだから。
僕の全てで、君を守るよ。”
夜の街で聞いたギルの言葉が蘇る。
私は無言で頷いて
ただただ、ギルを抱きしめ返すことしか出来なかった。