あたしは無意識に走り出していた。
「ちょっと梨佳!?どこいくの!」
お母さんの声に返事をする暇もなく、家を飛び出した。
隼斗、今探しに行くから。
どうせどっかで寝てるんでしょ?
あたしが泣きそうな顔で走っていったら、いつもの意地悪な笑顔で笑ってくれるんでしょ?
上手く働かない頭で、考え出すのは現実を現実と思いたくない。それだけ。
隼斗は、まだいる。
絶対に……
「着いた……」
あたしが止まらずに走り続けた結果たどり着いたのは、あの河辺。
卒業式の時も、こうやって走ってたどり着いたのはここだった。
斜面を駆け下り、あの時と同じように息を切らしながら周りを見渡す。
真っ黒な髪、真っ黒な瞳。
性悪な笑顔、笑った時の八重歯。
華奢な背中、力強い腕。
全てをこの眼が、この身体が覚えてる。
でもいくら走ってもその姿が見つからない。
「疲れた……」
なんとなく座ったところは、卒業式の前の日、2人で話したあの階段。