数時間後、珠利の着メロが鳴り出した。

携帯からワルツが流れる♪

「もしもし?」

『珠利ちゃん?朝霧善(ぜん)です…。涼夏の父です』

思いがけない出来事だった。

珠利もあっけにとられて、

「すずちゃんのお父さん?」

『携帯の番号は家内から聞きました』

涼夏の母親・美千代(みちよ)から聞いたことを伝えた。

『あの、珠利ちゃん。聞きたいことがあるんだけど、涼夏から連絡来る?』

「はい。メールとか来ます」

珠利は善の質問が謎に思えた。

「どうかされたのですか?」

『実は情けない話ですが、私と家内が涼夏とケンカをしてしまい家出するかのように連絡が途絶えてしまって…』

重苦しい口調で話す。

「涼ちゃんとケンカ!?」

『はい』

善は事情を説明した。

涼夏が家族とケンカした原因は。

涼夏の母・美千代の過保護ともいえる干渉だった。

美千代は幼き頃から母親(涼夏の祖母)が病気ばかりして入院が多く、甘えるということはなく、寂しい思いばかりしていた。


将来、自分の娘には寂しい思いはさせたくないという気持ちから、肩に力が入り過ぎてしまい、干渉し過ぎるようななった。

ときには美千代は空回りして励ましや思いやりのつもりで口にした言葉に涼夏は傷つくこともあった。

美千代の子供のころのトラウマが涼夏との…母娘のすれ違いが出来てしまった。

善もどうにかしようとするがらちがあかない状態だった。

そして、涼夏は家族との連絡を断つようになった。

善からの突然の電話に珠利は息を飲み込むような思いだった。

まさか男に体を売ってるなんて話せるハズはなかった。

『私は今、仕事で香港にいます。日本に帰ったら、相談したいこととかあるので会ってもらえませんか』

善は涼夏のことが心配でわらにもすがる思いだった。

「わかりました。日本に戻られたらまた連絡ください」

善と会う約束をして、電話を切った。