2005年。

6月の雨の日。

部屋の中を網戸にして雨の匂いに浸っている。

今日も部屋の中で瀧上真実(たきのうえまこと)がピアノを弾いていた。

恋人・高畑珠利(たかはたじゅり)の部屋で。

真実自身が綺麗な顔立ちのせいか、ピアノを弾いている姿も決まる。

真実は仙台出身で高校を出てからオーストリアへ留学していた。

現在はバイトしながら、早くピアニストとして一人前になろうと励んでいる。

今年で21歳になる。

珠利は鹿児島出身で音大を卒業している。

今年で25歳になる。

今はピアノの先生をしながらも、演奏会の依頼も引き受けている。

体が小さくきゃしゃな珠利は真実に寄り添って腕にしがみつき、

「ねぇ、私だけ愛してくれる」

珠利は真実の首に彫られた濃いめグレー色で細長い竜のデザインのタトゥーを人差し指でなぞる。

そんな珠利のわずかなスキンシップに照れながら、

「珠利だけだよ」

優しく答えた。

カコ可愛いらしさが引き立つ。

腕に胸が当たるが珠利の胸があまりないので感触はないが、それでも珠利に触れるだけで真実の体が熱くなってきた。

珠利は大きく猫のような愛らしい目で真実を見つめる。

「珠利は心配症だなって」

貴公子のような笑顔で真実は言う。

「お願い、約束して。私以外の女の人を抱きしめたりキスしたりしないで。」

「大丈夫だよ。俺は珠利が他の男に取られるのが心配だよ」

真剣なまなざしだ。

「私なんかに」

「何よりもすずちゃんが言ってた」

すずちゃんとは珠利の小学校の時の友人、朝霧涼夏(あさぎりすずか)のことだった。

去年から風俗嬢になった。

無事に福祉大は卒業したが、もっと障害者福祉の勉強がしたいのでそのためにお金が必要なので風俗をすることにした。

「すずちゃんが?」

珠利は涼夏が真実に何を言ったか気になった。

「可愛くて、優しくて、しっかりしてるから男の子にモテるって…。そして何よりも前向きということを教えてくれたって」

少し誇らしげに真実は語った。