自己嫌悪で支配された頭の上から降ってきた声に、私はどれだけ救われたのやら。

まるで王子様?

ううん、違う。



「どうしたの。大丈夫?立てるか?」



そうやって手を差しだす姿はまるで、
ヒーローだ。



「えっ…と……っだ、大丈夫ですっ
ぅ…平気です……」



涙で歪んだ視界はもう役にも立たず。

空のオレンジとアスファルトの色。

そして、私の学校の、この地域じゃ独特な緑色のブレザー。


聴いたことのない声。

同じ学校みたいだけどよく顔は見えない。

もしかしたら、先輩かもしれない。



「そんなとこに座っちゃ制服汚れるよ。
ほら、立って立って。」


そう言った彼は、地面についていた私の手を引っ張って……


「うわっあ!ちょ、何……」


自分に引き寄せるようにして、少し (いや、結構) 強引に立ち上がらせた。



「君大丈夫?何かあったの?」

「別に…大丈夫ですよ。」


あまり、人に話すことでもないし……


「本当にー?心配だなあ。
君、ほんとに平気?」

「はい。も、本当に、平気ですから。」


どちらかというと貴方に引っ張り上げられたダメージの方が強いです。


「本当の本当にー?」

「本当の、本当に!」


立たせてくれたことには (ある程度) 感謝しているが、そのしつこさに若干引きつつも返事をする。


彼が来てから、少し嗚咽を我慢している。

泣いてる所なんて見せるもんじゃないし。


無理矢理涙を引っ込めて笑顔を作った。



「本当に何もないですし、平気です。」

「ふーん。そこまで言うならいっかー。」


「 (やっと諦めてくれた…。) 」


「でもさ、君泣いてるとこよりも笑ってるのが合ってるしさ、もっと笑えよー?」

「へっ」

「じゃあなー!」


「 (な、泣いてたの、バレてた!?) 」



彼はそのまま萌葱色のブレザーを翻し帰ってしまった。

バレてしまったのはあまりいい気もせず。

同じ学校だから共通の知り合いもいそう。


人に言いふらされたらどうしよう…!?


用心深い (言い換えれば、臆病) 性格でもある叶なのだ。

助けられたって、他人はそう信用しない。


だがこればかりはどうしようもないこと。


叶は、空に願うしかなかった。



「 (どうか、二度とあの人と会うことがありませんように!) 」