その人が体を起こして立ち上がると、そこには戦い抜いた須崎先輩の姿があった。
先輩は立ち上がったが、少しふらついているようにも見えた。
「先輩!大丈夫ですか!?」
私はふらつく先輩を支えた。
「大丈夫。少しふらついただけだから。‥てなんで、美凪が泣いてるの?」
気がつくと、さっき止まったはずの涙がまた溢れていた。
「‥わ‥分からないです‥。どうしてだか、涙が止まらないんです。先輩が走る姿に感動したんですかね?」
私は先輩に笑ってみせた。
「美凪‥。」
「先輩、謝らないといけないことがあるんです。試合中、私、先輩に生意気なことを言いました。すみません。それだけじゃない、先輩の名前も呼び捨てにしました。本当にすみませんでした。」
私が謝ると先輩は私を抱きしめた。
先輩の心臓の音が聞こえる。
いつもより近くで先輩の鼓動を感じる。
「うん。知ってる。美凪が俺の名前、呼んでたことも俺に喝を入れてくれてたのも知ってる。俺、全部知ってるから。美凪の声が1番、俺に届いてたよ。」
ドキッ!!!
「そ‥それは‥よかったです‥。」
私は顔が真っ赤になってるところを見られたくなくて先輩の胸に顔をうずめた。
「美凪。俺があんなことされたぐらいで怒ると思った?」
私が思わず先輩を見ると優しい表情をした先輩が私を見つめていた。
「は‥はい‥。」
先輩の顔に見とれ思わず言ってしまった。
「バーカ。俺が怒らないよ。‥というか美凪にはすごく感謝してるよ。」
「それは‥どういうことですか?」
「俺‥陸上、やめようかなて思ってた。結果も出ないし、それどころかタイムは落ちるしで焦ってた。だけど‥人魚姫さんと出会って、頑張ることに決めた。」
人魚姫という言葉に聞き覚えがあった。
「それって‥。」
そこまで言うと先輩は私を真正面から見て言った。
「綾瀬美凪のことだよ。そう、美凪が俺を変えてくれた。それに‥美凪が励ましてくれなければ体育祭の時も今日の試合も絶対に勝てなかった。美凪がいてくれたから勝てたんだ。本当に感謝してる。ありがとう。」
真正面から礼を言われ私は照れた。
「いや‥そんな、たいしたことなんてしてないですよ!私はただ、先輩のことを応援したかっただけなんです!」
「それでも‥美凪の声だけが鮮明に聞こえて頑張れた。あのさ、美凪‥」
そこまで先輩が言った時だった。
「望!ちゃんと、クールダウンしたか?」
向こうから先輩の仲間が呼んでいる声がした。
「あぁ!これからする!」
「じゃあ、私はこれで行きますね。お疲れさまでした!」
そう言って立ち去ろうとしたが‥
「ま‥待って、美凪!」