「なんで、須崎先輩は3000メートルにこだわるんだろうね‥。」
智未ちゃんがポツリとつぶやいた。
「えっ!?それって、どういうこと?」
「‥大会の種目、決めるときにさ先輩なぜか3000メートルにこだわってたんだよね。体育祭でも、結構苦しんでたのに。」
「‥‥‥‥。」
‥なんで、そこまでして3000メートルを選んだんだろう‥。
「まぁ、何を走ろうと先輩の自由なんだけどね。でも、ちょっと気になったていうか‥なんというか‥。」
そこで、私はなぜか笑いが込み上げてきた。
「えっ?どうしたの美凪?泣いてるの?」
智未ちゃんが心配そうに聞いてきた。
「ううん。‥先輩らしいなぁと思って。‥中学の時から変わってないから‥。」
そう、いつも前だけを向いて答えをひたすら探している。
智未ちゃんの顔は納得していない顔だった。
でも‥知ってるのは、私だけでいい。
私だけが知ってる須崎先輩の中学時代。
レースは終盤になってきた。
11周目。あと4周でレースが終わる。
また、体育祭と同じような状況になりつつあった。
須崎先輩は先頭と半周ほど遅れていた。
「あーあ、あれじゃ巻き返しは無理だな。」
そんなため息を交えた話し声が周りから聞こえ始めた。
「あいつ、やっぱ長距離は向いてないって。短距離の方がよっぽどいい記録出せるんじゃないかな。」
マイナスな言葉が周りを飛び交う。
まだ、レースは終わってない。それなのに負けた雰囲気を出さないで‥。
まだ‥まだ、分からないじゃない!
私は席を立ち一番前の手すりのあるところまで走っていった。
「あっ!美凪!?」
後で智未ちゃんが呼ぶ声が聞こえた。
私は大きく息を吸って‥ちょうど、前のトラックを走ってる先輩に向かって叫んだ。
「須崎望!!あんたの力はそんなもんか!?あんたの力がそんなもんじゃないってこと証明してみせなさいよ!!!」
一瞬だけ先輩と目があった。
驚いたような‥それでいて、やってやろうという闘志にみなぎったような目だった。
「美凪‥あんた‥。」
振り返ると後には智未ちゃんがいて、智未ちゃんだけでなく他の部員も私のことを見ていた。
そこで、あることに気づき思わず口に手をやった。
「あっ!!タメ語!やっちゃった。‥ど‥どうしよう‥。」
すると、智未ちゃんは笑って私の肩を軽く叩いた。
「須崎先輩、あと3周ですよ!!頑張ってください!!!」
智未ちゃんの声に続いて、他の部員も思い出したかのように応援を始めた。
にわかに美星高校のスタンドはにぎやかになった。