先輩の鼓動



「はい!今日の練習はここまで!」



「ありがとうございました!!」



水泳部部長の水無月楓先輩の声で水泳部の練習が終わった。


長い夏休みが始まった。




大会前てこともあり、練習は午前中だけの半日練習がほとんどになった。


1年生である私は、まだ試合には出してもらえない。






更衣室に戻り制服に着替えているとスマホが震えた。


LINEのようだった。見てみるとそれは陸上部の智未からだった。


“須崎先輩のレース、そろそろ始まるよ!美凪、来られる?“



“すぐに行きます!“



そう一言、送って私は急いで着替えをすませた。



荷物を整理していると‥


「美凪ちゃん、これから3人でお昼食べにいくんだけど一緒に行かない?」


千世ちゃんが同じ水泳部の友達をつれて誘ってきた。


「ごめん!私、今日は陸上部のレース見に行くから行けないの。本当にごめんね!」


「あっ、そっか!陸上部には美凪ちゃんの意中の先輩がいるもんね!」


「そ‥そんなわけじゃ‥!」


照れて否定してみても千世ちゃんは、面白がって言う。


「わかってるわかってる。さっさといって来なよ。王子さまが待ってるよ。」


「ご‥ごめんね!また、誘ってね!」



そう言って私は更衣室から逃げるように出ていった。



この時、私は水無月先輩が私のことを見ていることに気づかなかった。









私は電車に乗って、大会が行われている競技場に向かった。


智未ちゃんは今回は見に行くだけで試合には出ないらしい。



2階のスタンドに入るとチームの応援団がたくさんいた。


私が智未ちゃんを探していると‥



「美凪!こっちこっち!!」



声のした方を見ると智未ちゃんが手を振って呼んでいた。



私は急いで智未ちゃんのもとに向かった。



「智未ちゃん!先輩は!?もう、終わっちゃった?」


「美凪、ギリギリセーフ。これから始まるところだよ。ほら!」


智未ちゃんが指差す方向を見ると、すでにスタート地点には選手が並んでいた。


結構な人数なので須崎先輩がどこにいるかは分からない。



「ねぇ、このレースは須崎先輩にとってどうなの?」


私は気になってたことを聞いてみた。


「大変なレースになると思うよ。レースには県で一番の選手、3年生の諸角(もろずみ)さんがいるし、それに‥須崎先輩スランプから脱出したばかりだし‥。」


その話は体育祭の時に聞かされていた。


先輩は先輩で苦しんでいるんだ‥。




パン!!!



私はピストルの音で現実に引き戻された。


すでにレースは始まっていた。


先輩、頑張れ!!




私はただ、応援することしかできない‥。





5周目ぐらいから須崎先輩が先頭集団から遅れ始めてきた。




「智未ちゃん‥。遅れてきてるね‥。」



「‥さすが、県で一番だけはあるわね。フォームとか整っていて綺麗だわ。」



智未ちゃんは、須崎先輩よりも県で一番の諸角さんが気になるみたいだった。



そして、気づけば先輩は先頭から突き放されていた。


しかもつらそうだ。