どうしよう、と思った。


やめておいたほうがいい、と言う声が頭の中で聞こえた。

でも、彼のことを思うなら、と言う声もした。


彼方くんを見る。

少しつらそうな笑みを浮かべながらグラウンドをみていた。


いつもあんなに生き生きとして、楽しそうに走ったり跳んだりしているのに。

そんな苦しそうな表情でグラウンドを見たりしてほしくない。


だから、私はスケッチブックの表紙をめくった。

八月初めの日付が入ったページと、数日前の日付が入ったページ。

二枚をちぎって、彼方くんに差し出す。


どきどきしすぎて胸が痛いくらいだった。


彼方くんが目を丸くして首をかしげながら受け取ってくれる。


ああ、渡してしまった。

もう後戻りはできない。


「なに、これ?」


言いながら彼方くんが二枚の紙を覗き込む。

じっと見つめてから、驚いたように大きく目を見開いた。


「え……。これって、もしかして、俺?」


私はこくりと頷いた。

そこには、彼方くんが空へと飛び上がった瞬間の姿が鉛筆でスケッチされている。


「うん……ここから見て、描いたやつ」

「……マジで? うわ、本当に?」


彼方くんが俯いたまま呟いている。

逆光になって、その表情はあまり分からなかった。