自宅から1番近い用水路は、私も通っていた小学校だ。

その昔、小学校の辺りは沼地だったとかで、水はけが悪く、だから大きな溝が小学校を中心に張り巡らされているらしい。


「はぁ、きつい……なんなの、この雨……」


傘に叩きつける雨はずっしりと重く、いくら長靴を履いているとはいえ、側溝から溢れた雨水は私の足を鈍らせる。


なんでこんな苦労をしてるんだろう。


なんか、おかしくない?
いや、おかしいよ……。何やってんの。

馬鹿みたいだ……本当。


思わず我に返った私は、立ち止まり、周囲をぐるりと見回していた。


気がつけば目的の小学校の目の前だった。

あたりは当然真っ暗で、停電に負けなかった、いくつかの街灯がポツポツと明かりを灯し、そして道に並行するように桜の木が植えられている。

これが全部咲いたなら、天気さえ良ければ本当に眺めがいいだろうな。

青い空とさっと刷毛で塗ったような白い雲。

その下に広がる桜並木を想像すると、とてもいい気分になる。


ほんの1週間前は、そうだったんだろうけど……。

ニュースで言っていた通り、この雨で桜は全て散ってしまったみたいだ。


足元を、雨がごうごうと音を立てながら側溝に向かって流れていき、その表面を覆った、桜の花びらがピンクの帯みたいに向こうまで続いている。