泣かないように、泣き言なんか言わないように。

ギュッと、息を止めて、かみしめる。


つらくない。なにもつらくない。


自分に言い聞かせていると、そのうち、目の前がよく見えなくて、まるで溺れているような気分になる。

頭がぼうっとして、なにも考えられなくなる……。
大丈夫。つらくなんかない……。


その時、ニュースキャスターが読む新しいニュースに、何かが引っかかった。

ニュースの内容が気になって、息を吸う。


テレビの画面をじっと見つめる。


『――用水路などには決して近づかないよう、お気をつけください。◯△町ではつい先ほど行方不明者が出て、現在消防による捜索活動が続いており……』


この雨でとうとう行方不明者が出たらしい。


用水路を見に行って、溺れて流されてしまったのだろうか。

流されている時はどんな気分だったんだろう。

もがく手足。不自由な呼吸。
自然の前では、自分の体なんか思い通りにならない。


想像しただけで背筋がぞくりとする。


私もそこに飲み込まれたらどうなるんだろう。


ここではないどこか遠くの海に流れ着いたとしたら……。


その瞬間を想像したら、どうしてだろう。


溺れているはずの私の呼吸は、驚くほど楽になっていた。