「うん、そうする……」


彼がいなかったらどうなっていたんだろう。どこかに連れて行かれたかもしれない。


過去の物騒なニュースが連想されて、自分もそうなっていたのかもしれないと思うと、また足が震えた。


「じゃあな。そこからタクシー拾って帰れよ」


多賀宮くんは、目の前のタクシー乗り場を指差し、いつもの調子でさっぱりと路地裏から出て行く。


今更気づいたけど、彼は麻のシャツにデニム姿だった。


私服、初めて見た……。


目の端に残る涙を指で拭い、彼の背中に向けて、もう一度お礼を言おうと口を開きかけたのだけど――。


「まっ、待って!」

「は?」


肩越しに振り返る多賀宮くんを、慌てて追いかけて腕をつかんだ。


「ここ、怪我してない!?」


肘のあたりを擦りむいている。

なのに多賀宮くんは、顔色ひとつ変えない。


「ああ……さっきちょっとアスファルトでこすったかもな」


コンビニでの場面を思い浮かべる。


そういえば、多賀宮くんが私の前に飛び込んできた時って、横からビューンって、飛んできたような感じだった。突然のことだったからよくわからなかったけど。