そんな顔を見られたせいか、

「新井山さん、助かりました。本当にありがとう」

先生が深々と頭を下げてきた。


「い、いえ……! 別に先生にお礼を言われることじゃないです!」


先生に頭を下げられるなんて初めてだから、慌てて首を振る。


だけど先生は「このことだけじゃないですよ」と、なんだかうまく笑えないような、申し訳なさそうな、複雑な表情になった。


このことだけじゃないって……。

ああ、そうか。

いくらおじいちゃんに口止めしたとはいえ、花山先生が多賀宮くんのおじいちゃんってことは、当然……彼が溺れて死のうとしたこと、知ってるよね……。


怒りは、あっという間にどこかに飛んで行ってしまった。


「娘……流星の母と一緒に、お礼に伺うべきだと思ったんですが、あいにく娘はイギリスで教鞭をとっていてね。いや、そうじゃなくても、帰国していいはずなんですが……」


なんだか含みのある表情で、先生は目を伏せる。


「じゃあ多賀宮くんは、今はお父さんと一緒に住んでるんですか?」