「言いたいことあるなら言えば」
突然、下を向いたままの多賀宮くんが口を開いた。
まともに声を聞いたのは10日以上前だから、脳の理解が追いつかなかった。
「……えっ?」
今、私に話しかけた?
驚いて周囲を見回すけど、教室には誰もいない。
開け放った窓から涼しい風が吹き込んで、カーテンを揺らすだけだ。
「お前だよ。なんなんだよ、カチコチ固まって。そんなに嫌なら断りゃよかっただろ」
多賀宮くんが、プリントから顔を上げ私を見ていた。
真正面から見ても完璧な、凜とした涼しげな顔で、まっすぐに射抜くように私を見ている。
「わっ、私に言ってるの?」
「他に誰がいるよ」
不機嫌そうに眉が寄る。
まさか話しかけられるとは思わなかったから、急な展開に、ドクン、ドクン、と心臓が鼓動を早める。
「でも、質問一切禁止って言ってたから……話しかけるなって」
おそるおそるそう言うと、多賀宮くんは「ああ……」と目を細めて、頬杖をついた。